あの人はわたしを見つめた。黙って、何秒間か。
そして微笑んだ。あの人はめったに笑わない人だと思われていたけれど、二人でよく話す者にとってはそうでもなかったの。近くでよく見ないとわからないくらいの変化だったけど、それなりに笑みを浮かべることもある人だったのよ。
「それなら、きみが覚えていてくれ、エリザベス」
あの人は微笑んだまま言った。
「わたしがきみの父をとても愛していたこと、この国のために働こうとしていたことを、他の皆が忘れてしまっても、きみだけは覚えていてくれ」
「もちろん覚えているわ。でも、みんなにも知ってほしい」
「きみがそう言ってくれるだけでわたしは救われる。他の者たちにどんなに悪く言われようと、きみがわかってくれていればそれだけで充分だ。ありがとう、エリザベス」
狡い人だった。わたしの気持ちを知りもしないでそんなことを言い遺すなんて。
それから間もなくボズワースの決戦が行われ、あの人が王位からも地上からも去ったのは、あなたも知ってのとおりよ。
これでわたしの話は終わり。あなたの期待した話だったかしら、それとも思っていたのと違ったかしら。
ねえ、あなたはどうしてわたしのところに来たの? 最初にも言ったけれど、あの人のことを聞きたいと言いに来る者は、近ごろはほとんどいなくなっていたのに。
どうして今になって、それも、わたしが寝ついている時にやってきたの?
ああ、だからこそかしらね。わたしがこのままあの人のところへ行ってしまったら、あの人のことをつまびらかに話せる者は、この国にほとんどいなくなってしまうから。
ごまかさなくていいのよ。わたしはもうすぐ召されるでしょう。先に行った娘と一緒だから寂しくはないのよ。あちらには、わたしを待ってくれている人が大勢いるでしょうし。
それにしても、よくこの部屋に入ってこられたわね。仮にも王妃の寝室にして病室に。見張りの者や侍女たちは何をしていたのかしら。夫も、義母も、子どもたちもいない時に来るなんて、あなたはよほど上手く機会を狙ったのね。
あなたは誰なの? ああ、答えなくていいわ。申し訳ないけれど、名前を聞いても覚えていられそうにないから。もうあなたの顔をこの目で見ることもできないし。
誰だか知らないけれど、わたしの話を覚えておいてね。
そして、あの人のことを聞かれたら、こう答えて。
あの人は酷い王だった。この上なく残虐な人だった。
あの人があんなことを言い遺したせいで、わたしの残りの人生は地獄だった。
わかってもらえるかしら、あの人の本当のことを知りながら、彼が弟たちを殺したという話に耳を貸すということ、あの人を戦場で亡き者にした男を夫にして、邪悪な叔父から救われて幸せだという顔をし続けること、それがどういうことなのか。
少しでも同情してくれるなら、どうか覚えておいて。
わたしがあの人を、とても愛していたということを。