紐で十字に縛られているのは変わらないのだが、それでも彫りの美しさは損なわれていない。
小屋で一緒にいた時から思っていたが、佑は手先が器用だ。ものを作ったり直したり、道具を使うこと全般が得意らしい。それにしても、こんなことまでできるとは思わなかった。
「昨日の夜、ひょっとして寝ないでこれを造っていた?」
「いや、仕上がったらちゃんと寝たよ」
「火から離れたところで?」
「そうしようと思ったんだが、暗くてさすがに無理だったから戻ってきた」
ということは、寝ているセナの横で佑はこれを夜な夜な彫っていたのか。佑が目を悪くするようなことをしていなくて安心したが、自分が眠っている側で贈り物を造ってくれていたのだと思うと、妙に気恥ずかしくて、同時に嬉しかった。
「ありがとう」
両手の指先でそれを包んだまま、セナは佑を見上げて言った。
佑は笑った。緊張していた表情がようやく和らいだようだった。
「うん」
「あの……嬉しそうな顔ができなくてごめんなさい」
もっと何か言わなければと思い、セナはそれだけ絞り出した。
本当は佑に笑い返したかった。だが、二年も誰とも笑いあっていなかった顔が言うことを聞いてくれない。佑はずっと自分に笑顔を見せていてくれるのに、セナのほうは常に無愛想で不機嫌そうで、一緒にいてもまったく楽しそうに見えないだろう。
「えっ」
「そう見えないかもしれないけど、すごく嬉しいから。わたしが喜んでいないと思わないで……ほしい」
やっとの思いで伝えると、セナは耐えきれずに視線を落とした。頬が、全身が火照ったように熱くなっている。笑おうとしても顔に出せないのに、こういう反応だけは勝手に表に出てしまう。
佑はしばらく無言だった。おかしなことを言って困らせたのかと不安になり、セナがおそるおそる顔を上げると、佑は空いているほうの手で自分の顔を覆い、セナから目を背けてあらぬ方向を見ていた。
「まずいな……」
「え?」
「いや、ちゃんと伝わっているから。大丈夫だ」
そう言って戻ってきた佑の目が笑っていたので、セナはほっとして体の力が抜けた。