「都に戻ったら、一緒に市にでも行って、何かないか探そうか。きれいなものを実際に見たらほしくなるかもしれないし」
「必要なものは出てくるかもしれないけど、贈り物はもういらない。これがあるから」
「そうか」
佑は苦笑した。どうしても他に何か贈りたいと思ってくれていたのだろうか。こういう時は、可愛らしく甘えて適度なものをねだったほうが良かったのだろうか。強情で可愛げのない女だと呆れられただろうか。
セナが顔を上げられずにいると、佑のほうがセナから離れ、しかし思い直したようにまた覗き込んできた。さっきよりも距離が近く、つい目があってしまってセナの頬が熱くなる。
「わかった。じゃあ、それをいったん貸してくれるか」
「え?」
「すぐ返すから。その、言葉と贈り物を別々に渡してしまったから、もう一度やり直したい」
セナは無言で紐に手をかけ、首からそれを外して差し出した。頬はあいかわらず熱く、胸が騒々しく鳴っている。
この場ですぐに返してくれるのかと思ったが、佑はそれを受け取ると紐を丸めて束ね、脇にあった荷物の上に置いた。
妻になってほしいと再び言われるのだと思っていたセナは、緊張の糸が切れて同時に少しがっかりする。がっかりしたことに密かに恥ずかしくなる。
「返してくれるんじゃ……」
「ああ、一晩預からせてくれ。明日には返すから」
「……どうして」
「少し汚れているから、きれいにしたい。それに、こういうのはもっと景色のいい場所でしたほうがいいだろう」
汚れも場所もセナはまったく気にならないのだが、食い下がって生意気だと思われるのが心配で、黙ってうなずくことしかできなかった。もらえると思っていた言葉がもらえなかった寂しさがまだ胸のどこかに残っている。たった数日で、自分はずいぶんわがままになってしまった。