「では、運用方法は今のままで結構ですから、内容の幅を広げてゆきましょう」
「――幅?」
「政務に関わることだけではなく、オフでの陛下のことも少しでいいので書いてください。特に王妃さまのことを書けば好感度は間違いなく上がりますわ」
リチャードは忙しい合間に時間をつくって、病身のアンの様子を毎日見に行っている。廷臣の中でもごく限られた者しか知らない事実だ。SNSだからこそ知ることのできる王族のプライベートは需要があるはずである。
「SNSでは、私生活が充実している者は反感を買いがちなのではなかったか」
「それは一昔前のSNS観ですね。というより、わたしたちロイヤルの恋愛や家庭の話は一般人のそれとは違って昔から好まれる傾向にあります。ヘンリー・テューダーのアカウントも婚約者のことを持ち出すといいねの数がぐっと伸びていますわ」
「婚約者とはきみのことだろう」
「とにかく、時々で結構ですから、陛下は王妃さまのことにもさりげなく触れるようにしてください。王妃さまがお元気な時は安心の、そうでない時は心配の色を醸し出せば、ユーザーたちも必ず好意的な目で見てくれますわ」
「だめだ。アンのことはSNSには書かない」
すげなく却下され、勢いこんで話していたエリザベスは椅子から前のめりに倒れそうになった。
リチャードの声色も表情も変わっていない。淡々としたまま、しかし異論を寄せつけない雰囲気でタブレットに目を落としている。
「……少しでいいのですけれど」
「少しでもだめだ」
「詳しいご病状を書けとは申しませんわ。陛下が王妃さまを気遣われていることさえ伝われば良いのですから」
「だめだ」
「政務のことを書くのと同じトーンで、何時何分に王妃さまを訪れたというだけでも」
リチャードの視線がエリザベスに向いた。疲労で落ちくぼんだ目に、エリザベスが見たことのない色が宿っている。
子どものころから、リチャードが本気で怒ったところを、エリザベスは見たことがなかった。
「――わかりました、王妃さまのことはもう申しません」
「ああ」
リチャードは涼しい顔でタブレットに視線を戻した。
この愛妻家が、と舌打ちしたくなるのを抑えながら、エリザベスは再び頭をひねった。