小さな箱の面に一つひとつ彫られた模様は本当に可愛い。指先でそっと触れると当然ながら凹凸があり、木のぬくもりが感じられる。
小川のほとりに座ったまま、セナはしばらく口をきかずにそれを眺めていた。佑ももう話しかけてはこず、はじめは視線を感じていたが、やがて別のことに注意が移ったのか離れていった。
陽あたりのいいこの場所は本当に暖かく、もうすぐ冬なのが信じられないほどだ。考えてみれば、外で陽を浴びるのはセナにとってはずいぶん久しぶりだった。
帝の軍と合流してからも、このような時間はときどき持てるだろうか。
そう思うと、セナの胸は締めつけられるように痛んだ。
このまま歩き進めば今日中か、遅くとも明日には軍に追いつけると佑は言っていた。帝の軍というのがどういうところなのか、そこに入ってどのように暮らすのかセナには想像がつかないが、こんなふうに二人で穏やかに過ごせる時間ばかりではないだろう。
ずっとこのままだったらいいのに、とセナは思う。
佑はセナに野宿させるのを気にして早く軍に追いつきたがっていたが、セナはこのままの日々が続いても一向に構わなかった。
手をつないで歩き、疲れたら暖かい場所で休み、夜は火の側で肩を寄せあう。お互いのことを少しずつ話して少しずつ知っていく。それだけの旅がずっと続いてくれたら。
肩に何か重みを感じて、セナはもの思いにふけったまま顔を上げた。
佑が体を傾けて、セナの肩に頭を寄りかからせている。目は閉じていたが、セナが見るとほとんど同時に開いた。