「そろそろ休もうか。今日もよく歩いて疲れただろう」
「……うん」
セナは膝を抱え直した。薪の爆ぜる音が急に耳につくようになる。
「今日はあなたが先に寝て」
昨夜は押し問答のあと、セナが眠気に負けて寝入ってしまい、目覚めたのは朝だった。佑を一晩中起きていさせたことに気づいて慌ててそれから休んでもらったのだ。
「いや。おれはちょっと周囲を見てくる。明日行く道を確かめておきたいから」
「そんなのは朝になってからでも――」
「少しだけだから」
「じゃあ、わたしも」
「休んでいてくれ」
遮るように言うと、佑はセナの両肩に手を置いた。声も力も強いものではなかったが、寄りかかっていた体を引き剥がされるようなかたちになり、あたたかさが急激に遠のいてセナは身をすくませた。
「火の見えなくなるところまでは行かないから」
佑は笑顔で言うと、セナの返事を待たずに背中を向けた。
火の側に一人残されたセナは、体にかけていた布を直して再び縮こまる。
また口答えばかりしてしまったから、今度こそ愛想をつかされたのだろうか。休めと言ってくれているのだから素直に甘えれば良かったのに、薬師として世話をしていた時の癖が抜けず、佑のすることにうるさく口を出そうとしてしまう。佑はもうすっかり治って元気なのだから鬱陶しく感じてもおかしくない。
集落に出入りしていた時に見かけた、恋人や許嫁のいる娘たちは、相手にどんなふうに接していただろうか。自分には縁のないことだと思っていたので、彼女たちの振る舞いを観察したり、まして真似たりしようなどと考えたこともなかった。それでも、少なくとも自分のような強情な態度をとる女はいなかっただろう。
贈り物は断って、休めと言われたのに逆らって、そのくせほしい言葉をもらえなかったり、側を離れられたりすると不満な顔をする女に、佑もそろそろ後悔しはじめているのではないだろうか。
疲れているのに眠れそうになかった。火の明るさばかりが目について、一人で残されていることを意識してしまう。
佑が戻ってきた時、まだ眠っていなかったら、今度こそ呆れられるだろう。
セナは自分の膝に顔を埋め、眠れないなりに眠ろうと努力した。昨日は佑の肩が頭を支えてくれたのにと思いながら。