リチャード三世がSNSアカウントを開設する話3

木津川結
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 どの投稿にもそれなりの数の評価がつき、『ヘンリーさん頑張って』『流浪の王位継承者かっこいい』『最近の私の推し』とコメントが連なっている。応援や協力を呼びかけるものが多いので拡散されやすく、フォロワー数も右肩上がりでどんどん伸びている。基本的には品行方正な内容ばかりだが、SNS受けのいいくだけた話題や用語も適度に使い、ユーザーたちを喜ばせ親しまれている。

 他のアカウントへの絡み方も巧い。各国の君主にそれぞれが好む話題で食いつき、低姿勢ながら卑屈ではない絶妙な距離感を築き、彼らと自分が同列であるかのように見せかけている。

「わたしがこのアカウントを見つけたのは一週間ほど前ですが、その間にもフォロワーは二割増し、王族や有力者との相互フォローも増えています。何より民草アカウントたちのこの反応ですわ。このままではヘンリーの支持者が増えていく一方です」

「こんな無益な文字情報を読むのが楽しいなら読ませてやればいい。そんなことより、きみのこの端末は二世代も前のではないか。買ってやるから最新モデルに替えなさい」

「けっこうです。わたしは陛下のようなデバイスマニアではありませんので」

 エリザベスは苛々しくタブレットを引き上げた。

「いいですか、失礼ながら陛下に足りないものすべてがここにあるのです。自分の売りをさりげなくアピールして人の気を引き、協力者を増やしていく。大切なのは人の目に触れること、人の耳に入ることです」

「そうか」

 リチャードは気のない声を発し、再び読んでいた書物に戻ろうとした。

 エリザベスは両手で机を叩いた。

「わかっていらっしゃいます、陛下?」

「すまないがわからない」

「陛下がどんなに身内に親切で、政務に熱心で、イングランドのためになる功績を次々に挙げていても、そのことを公表しなければ誰も知ることはないのです。その一方で、悪い噂は人々の何より好むものですから、誰からともなくひとりでに広まっていきます。訂正しなければ本当のことは決してわかってもらえません」

「わかってもらう必要があるのか」

「あるのです!」

 エリザベスはとうとう叫んだ。部屋にいる従僕たちがびくりと肩を弾ませる。

@quitecontrary
小説の下書きのようなもの lit.link/kizugawayui