どの投稿にもそれなりの数の評価がつき、『ヘンリーさん頑張って』『流浪の王位継承者かっこいい』『最近の私の推し』とコメントが連なっている。応援や協力を呼びかけるものが多いので拡散されやすく、フォロワー数も右肩上がりでどんどん伸びている。基本的には品行方正な内容ばかりだが、SNS受けのいいくだけた話題や用語も適度に使い、ユーザーたちを喜ばせ親しまれている。
他のアカウントへの絡み方も巧い。各国の君主にそれぞれが好む話題で食いつき、低姿勢ながら卑屈ではない絶妙な距離感を築き、彼らと自分が同列であるかのように見せかけている。
「わたしがこのアカウントを見つけたのは一週間ほど前ですが、その間にもフォロワーは二割増し、王族や有力者との相互フォローも増えています。何より民草アカウントたちのこの反応ですわ。このままではヘンリーの支持者が増えていく一方です」
「こんな無益な文字情報を読むのが楽しいなら読ませてやればいい。そんなことより、きみのこの端末は二世代も前のではないか。買ってやるから最新モデルに替えなさい」
「けっこうです。わたしは陛下のようなデバイスマニアではありませんので」
エリザベスは苛々しくタブレットを引き上げた。
「いいですか、失礼ながら陛下に足りないものすべてがここにあるのです。自分の売りをさりげなくアピールして人の気を引き、協力者を増やしていく。大切なのは人の目に触れること、人の耳に入ることです」
「そうか」
リチャードは気のない声を発し、再び読んでいた書物に戻ろうとした。
エリザベスは両手で机を叩いた。
「わかっていらっしゃいます、陛下?」
「すまないがわからない」
「陛下がどんなに身内に親切で、政務に熱心で、イングランドのためになる功績を次々に挙げていても、そのことを公表しなければ誰も知ることはないのです。その一方で、悪い噂は人々の何より好むものですから、誰からともなくひとりでに広まっていきます。訂正しなければ本当のことは決してわかってもらえません」
「わかってもらう必要があるのか」
「あるのです!」
エリザベスはとうとう叫んだ。部屋にいる従僕たちがびくりと肩を弾ませる。