リチャード三世がSNSアカウントを開設する話8

木津川結
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 リチャードはエリザベスの言ったことを忠実に実行していた。毎日の行動をひとつひとつ、淡々と、細かく、具体的に、SNSに書いて発信している。実況中継かと思うほどのまめまめしさで。

「……あの、事実だけではなく、陛下のその時の雑感なども少しは入れていいと思います。印刷所に行ったならそこのどのような技術に感動した、とか」

「印刷所の職人たちにはその場で伝えた」

「それをSNSにも書けばユーザーたちも共感してくれるかもしれません。それから、某国大使ではなく、そこは国名を出してもいいと思いますわ。お話しした内容も――会談の中身はともかく、もてなしの場でこんな話で盛り上がったなどを書くと、その国との繋がりをアピールできるのですけれど……」

 エリザベスが説けば説くほど、リチャードの目が死んでいく。これ以上に面倒なことをやらされたくないのだろう。

「きみが毎日のことを淡々と書けと言うから書いている」

「言いましたけれど、ここまで淡々としているともはや事務レポートです。フォロワーたちもこの圧倒的仕事量に感心するより引いています」

「そうは言うが、好意的なコメントもそれなりに来るぞ」

 リチャードの言うとおり、『リアルすぎ』『生々しくて正直興奮する』『ストイックなしごでき嫌いじゃないです』と多少なりともコメントがついている。アンチコメントはない――そもそも事実を述べているだけなので難癖のつけようがないのだろう。中には『#今日のリチャード三世』とハッシュタグをつけて毎日引用してくれているフォロワーもいる。

 だが、その数が圧倒的に少ない。アカウントを開設した当初はあれだけ拡散されたというのに、投稿内容が毎日業務報告しかないとわかってくると徐々に人の波は引き、フォロワー数は頭打ち、反応は日に日に減っている。

 リチャードの良さを広く知ってもらうためのアカウントなのに、一部のマニアにしか喜ばれていないのが現状である。

@quitecontrary
小説の下書きのようなもの lit.link/kizugawayui