ここまで来ても覇気のないリチャードの目を見ていると、勢い余った自分が馬鹿馬鹿しくなってエリザベスは肩を落とした。
「もうけっこうです。陛下にSNS戦略を説いたわたしが愚かでしたわ」
冷ややかに言って身を返し、立ち去ろうとすると、リチャードの声が背後からかかった。
「何を書けばいい」
「え?」
振り返ると、リチャードが自分のタブレット端末を机に置き、なめらかな手つきで操作ししていた。
「まずアカウントは作った。何を書けばいいのかまったくわからないが」
「まあ、陛下!」
エリザベスはリチャードの前まで急いで戻り、タブレットを覗き込んだ。エリザベスが見せたのと同じSNSのアカウントが本当に新生していた。ユーザー名は「リチャード三世」、プロフィールには「イングランド王」だけ、アイコンもヘッダーも初期のままの素っ気ないものだが、紛うごとなき本物のアカウントである。
「イングランド王以外の称号も書くべきだろうか」
「そこはよく話しあいましょう。陛下、やっとやる気になってくださったのですね」
「やる気はないが、きみがそんなに言うのなら」
言葉どおりリチャードの目にも声にもやる気らしいものは見えないが、設定画面からセキュリティや言語について次々と選択していく手に迷いはない。デジタルデバイス好きなだけあって興味がないわりに操作は早い。
「ありがとうございます、陛下。ヘンリー・テューダーを上まわる人気アカウントを目指して参りましょう」
「ああ」
やる気のない目のままリチャードが答えた。