王妃の話5

木津川結
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 わたしが十七歳のとき、その日はやってきた。父が亡くなったのよ。

 あっけない最期だった。何度も戦場に出て危機を乗り越えてきた人が、病床についてわずか数日で息を引き取った。

 わたしは悲しいというより、それが現実のことだと思えなかった。あんなに強くて、美しくて、明るかった人が、今は冷たくなって棺に横たわっているなんて。

 それでも時間は容赦なく流れていった。父が亡くなったほんの数日後、母が言ったの。

「また聖域に行くから、荷物をまとめなさい。妹たちにもそうするよう言いなさい」

 わたしはわけがわからなかった。だって、ランカスター派はもうイングランドにいないはずよ。父は世を去ったけれど、その後を継ぐ弟のエドワードがいる。ヨーク家の王位は盤石のはずなのに、母はいったい誰と戦おうとしているの。

@quitecontrary
小説の下書きのようなもの lit.link/kizugawayui