ハンドドリップの珈琲

くぜ
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わたしが住む地域は商店街に店が残っている。所謂シャッター街にはなっていない。お気に入りにケーキ屋もイタリア料理屋も商店街にある。住んで数年が経つが、まだ行ったことのない店も多い。

今日は近所のコーヒー屋に行った。レジカウンターと四畳にも満たない店内に豆が展示してあるだけのとても小さな店だが、その場でも淹れてくれるし豆も買える。テイクアウトのみで軽食の類は一切ない。

コーヒーメーカーに用意してあるもの(本日のコーヒーというオリジナルブレンド)と豆を選んで淹れてもらうハンドドリップで値段が倍近く違う(※どちらもとても安い)夫と一緒に行ったので両方頼んでみた。バリスタらしき男性の動きとコーヒーの泡が立つ様子をじっと見る。店が狭いため距離も近い。

「あの、これ、こんなガン見していていいんでしょうか?」

思わず聞くと、注文するまで表情に一切変化のなかったバリスタが笑った。レジ打ちをしてくれた女性店員が「どうぞ、ご覧になってください」と言うので遠慮なく眺めていた。コーヒーを淹れるのは忍耐力がいる。数回に分けてお湯を注ぎ、それをじっと見極めてまた注ぐ。わたしは茶道の経験があるが、それよりも繊細な動きに見えた。

人件費と技術の乗ったコーヒーは確かに美味しかったが、昨今のコーヒーメーカーの企業努力もあって結局はどちらも遜色ないように思う。わたしはAGF(味の素ゼネラルフーズの略)のインスタントコーヒーを好んで飲んでいるが、それだって十分満足できる。お手軽な舌なのだ。

またいつかこの店に世話になるとして、わたしはどちらの淹れ方を選ぶのだろうか。急いでいたらコーヒーメーカーで十分だが、プロが淹れる光景を楽しむなら断然ハンドドリップだろう。なぜならば、わたしは数百円で買える特別感にめっぽう弱いからだ。