2024年に公開された映画『デッドプール&ウルヴァリン』にこんなシーンがある。盲目の老人・アルがコカインを取り出したところを、主人公のウェイドが「コカインはケヴィン・ファイギがNGを出している」と制止する。ケヴィン・ファイギは、マーベルの社長であり、マーベルの映画シリーズを統括するプロデューサーだ。
かつて『とんねるずのみなさんのおかげでした』というバラエティ番組がフジテレビで放送されていた。当時、私はまだ子供で、面白さをあまり理解できていなかったのだけれど、ひとつだけ、克明に覚えているくだりがある。
とんねるずのお二人が何かを言うたび、画面の右下に「石田弘EP」というテロップとともに気難しい顔をしたおじいさんの顔が表示されるのだ。石田弘が誰なのかも、EPの意味も分からない。でも、なぜか面白くて、そこだけはよく覚えている。
EPとは、エグゼクティブ・プロデューサーのことだ。番組を統括する立場として、予算や人員など、番組の根幹を支える責任を負う。映画やほかのメディアでもだいたい同じ役割の人がいる。ケヴィン・ファイギも似たような立場である。簡単に言えば、そのプロジェクトにおける「最高権力者」だ。
プロデューサーがイジられる様子は、いち視聴者として観ていて面白い。もちろん、こういうのが嫌いな人もいるだろうから、個人的な話。でも、たぶん、現場の人たちはもっと楽しんでいるんじゃないかな。もし自分がライアン・レイノルズ(デッドプールの俳優)だったら、脚本をファイギに見せるとき、ウキウキで仕方がないだろう。
権力者にあからさまに歯向かうことはリスクを伴う。しかし、作中でイジれば、それが面白さになる。面白いものを届けるのがプロデューサーの仕事だから、ケヴィン・ファイギや石田弘EPは優秀なプロデューサーといえる。パワハラやセクハラをするプロデューサーは、その点だけをとってみても、端的に無能である。