全員、愛妻家。

池田大輝
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公開:2025/6/29

私の好きな作家には共通点がある。それは、愛妻家であることだ。

『すべてがFになる』で知られる小説家の森博嗣先生は、奥様(森先生に倣ってあえて敬称)であるささきすばる氏について、ことあるごとにエッセィに書かれている。漫画家の畑健二郎先生は、声優の浅野真澄さんと結婚し、同時に『トニカクカワイイ』を発表した。『トニカクカワイイ』は、主人公のナサくんが、とにかく可愛いヒロイン・司ちゃんと結婚するところから始まる新婚ラブコメである。『インターステラー』や『オッペンハイマー』で知られるクリストファー・ノーラン監督は、妻でありプロデューサーでもあるエマとタッグを組んできた。愛妻家かどうかは知らないが、少なくとも、険悪な関係だったら、これほどの名作を生み出すことはできなかっただろう。

愛妻家であること、あるいは、性別に依らない言い方をすれば、パートナーと良好な関係を築いていることが、良い作品を生み出す明確なロジックは見当たらない。関係が良好だからといって良い作品が書けるわけでもないだろうし、優れた作家が愛妻家であるとも限らない。

とはいえ、先に挙げた3名の作家について言えば、全員、人生のパートナーが創作のパートナーでもある、という点において一致している。ノーラン監督については言うべくもあらず、畑健二郎先生と浅野真澄さんは、結婚する以前から一緒に同人誌を書かれていたと聞く。森先生も、奥様との共著がいくつかある。

『冴えない彼女の育てかた』というラノベがある。私はアニメしか観ていない。主人公の安芸倫也、またの名を倫理くんは、ある日、加藤恵というヒロインと運命的な出会いを果たし、恵をモデルにギャルゲーをつくり始める。恵は倫理くんを支えながら、共にゲームをつくっていく。

極端に言えば、みんな、冴えカノみたいなことをしているのだと思う。運命に出会ってしまった以上、導かれるままに進むしかない。運命の女神に逆らうことはできない。愛妻家とは、それくらい強力な神の力を手に入れた人たちなのだ。そして、きっと、それは私に足りないものだ。私一人の力などたかが知れている。本当の意味でそれを悟ったとき、運命の女神はそっと前髪を揺らすだろう。ただし、前髪を掴んではいけない。せっかくセットした前髪が崩れてしまう。掴むべきは前髪ではなく、彼女の心だ。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。エッセィを毎日更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink