いろんなものが簡単に手に入ってしまう時代である。テレビの向こう側でしか会えなかった芸能人はSNSをやっている。二度と手に入らないと思っていたレトロゲームもメルカリで買える。欲しいものは手に入り、会いたい人には会えてしまう。
と、錯覚してしまうのは、近くにあるものばかりが視界に入り、その遥か向こう側にある存在が、霞んで見えなくなっているからだと思う。SNSでメッセージを送ったからといって、距離が縮まったわけではない。ラジオで手紙を読まれたからといって、友達になったわけではないのと同じ。距離感を誤解させるという意味において、インターネットほど厄介なものはない。これは、自戒も込めている。
手の届かない存在は、手の届かない場所にいてほしい。エベレストに簡単に登れるようになっても、全然うれしくない。エベレストは、エベレストだからこそ、いつか登ってみたいと思う。月は、そこにあるからこそ、いつか行ってみたいと思う。あなたは、簡単には会えないからこそ、いつかちゃんと会いたいと思う。簡単に手に入るものには興味がない。誰もが持っているものにも興味はない。誰も足を踏み入れたことのない世界の果てで、私はあなたを見つけたいのだ。