泣きたくないのに涙がどうしようもなく溢れてしまうことがある。こんなことで、こんな奴の前で泣いてしまう私が情けない。許せない。いっそ消えてしまいたい。
なぜ泣いてしまうのか。その理由は、泣いている本人が一番わからない。涙は勝手に流れてくる。なぜか。涙は、それが必要なタイミングをよく知っているからだ。
涙は、血だ。生理的にも、文学的にも。泣いてしまうのは、心がそれだけ傷を負っている証拠だ。心の傷は自覚しづらい。自覚しても、認めたくない。だから、身体が泣いてくれるのだ。臆病で不器用な私の代わりに。
もし涙が赤かったら——人はもっと優しくなれたかもしれない。それでも、涙が透明なのは——いや——涙が透明だからこそ、人は優しくなれるのだろう。涙が透明だからこそ、何度泣いたって構わないのだ。
涙の数だけ強くなれるとは限らない。けれど、涙の数だけ人は優しくなれる。涙をわざわざ透明にするくらいには、神様はロマンチストだ。だから、思う存分泣けばいい。涙が透明だからこそ、あなたの優しく美しい瞳がよく見えるのだ。