「好きすぎて、死にたくなる」

池田大輝
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公開:2025/4/17

「って言われても、困るよね」

「うーん」

「否定しないんだね。ありがとう、好き」

「ありがとう」

「ありがとうはあたしのセリフ。奪わないで。殺すぞ」

「ごめん」

「はあ。好き。死にた」

「死なないでよ」

「死ぬなんて言ってない。死にたいって言っただけ」

「同じでしょ」

「違うよ。殺す」

「僕のほうが先に死にそうだけど」

「なにそれ。うける。うざ。好き」

「好きなの? 嫌いなの? どっち?」

「それはだるい。今ので嫌いになった」

「そりゃどうも」

「ねえ、なんか調子に乗ってない?」

「乗ってる」

「は、死ね」

「じゃあ殺せば」

「お、言ったな?」

「うん」

「死ね」

そう言って、彼女は僕を突き倒し、馬乗りになって僕の首を絞める。

「うぐ……」

「どう? 死にそう?」

「うーん……あんまり」

「うざ。これでどう?」

「うう……気持ちいい」

「うわっ、キモ」

「ありがとう」

「ねえ、もしあたしが本当に殺したらどうする?」

「殺されたらどうしようもないね」

「そういうのいいから」

「うーん…そっか、って感じ」

「どういう意味?」

「別に。特にない」

「あたしに殺されてよかったって思う?」

「まあ、ちょっとは」

「ちょっとだけ?」

「多少は」

「他の女に殺されるのとどっちがいい?」

「相手による」

「は? じゃあ誰ならいいの?」

「うーん……そう言われると難しいな」

「じゃああたしに殺されるのが一番うれしいってこと?」

「そういうことにしておこうか」

「なにそれ。きしょ」

彼女は手に力を込める。

と言っても、本当にマッサージくらいの力だ。

手がぷるぷる震えているのも相まって……

震えている?

なんで?

と、思ったその時、

彼女は僕の左頬を思いっきり殴った。

グーで。

一瞬、意識が飛んだ。

そして、意識が飛んだ一瞬のうちに、彼女はどこかへ消えた。

一瞬だと思っていた時間が一瞬ではなかったのだとしたら——

僕は怖くなり、少しざらついたキッチンの床を撫でる。

彼女の足が接していたであろう部分は少し生温かい。

オレンジ色の照明がやけに眩しい。

さっきまで彼女の顔で影になっていた。

彼女は僕を守っていてくれた。

いや、守ろうとしてくれた。

僕はそれに気づけなかったのだ。

僕は彼女を殺した。

僕が彼女を殺した。

天井の灯りは玉ねぎみたいに僕の目を刺す。

彼女がアイスを買って来るまで、僕は目を開けたまま泣いていた。

仰向けで泣いている僕を見て、彼女は満足げに笑った。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink