「うん……」
「じゃあ、死のっか」
「うん……」
「いや、そこは引き止めろよ!」
「あ……ごめん」
「はあ……そういうところだぞ」
「すみません……」
「ねーえ」
「うん……」
「はあ……泣きたいのは私のほうなんですけど」
「うん……」
「うん、しか言えないの?」
「うーん……うん」
「なにそれ。全然面白くないよ」
「うん……」
「はあ……ううっ、さぶっ!」
「寒いね」
「ほんと寒い。てか風強すぎ」
「ね」
「はー、死にた」
「死にたいって思うの?」
「うーん、まあ、それなりに」
「そっか」
「きみはそうでもないでしょ」
「うーん……どうかな」
「私が『一緒に死のう』って言っても、直前で怖くなって逃げるでしょ」
「うーん……」
「否定しないってことは、そうじゃん」
「まあ……」
「死にたくないならさ、なんでこんなところまでのこのこついてきたわけ?」
「……」
「ていうか、ここ、どこ? 海ってことしかわからん」
「スマホは?」
「捨てた」
「ああ……」
「こいつマジでやばい女だな、って思ったでしょ」
「うん……」
「ふっ。そういう正直なところは悪くないと思う」
「どうも……」
「ふふ。これでも褒めてるんだからさ」
「うん……」
「……」
「……」
「なんかさ」
「うん」
「死ぬのって、結構ダルそうだよね」
「それは思った」
「え、マジ!? こんなところに共感者が!」
「だって……普通に考えたら、薬とかで死ぬほうが絶対楽だよ」
「それなー。でもさ、なんとなく、死ぬならこういう断崖絶壁かなって」
「ドラマの見過ぎでは……」
「家にテレビないけど」
「ああ……」
「だから、要するに、死ぬためにわざわざこんな場所に来てる時点で、本当は死にたくないんです、ってことの証明になっちゃってるってわけ」
「……」
「あれだよ、パフォーマンス。こんなに死にたいの、だから、誰か助けてー!って」
「……ふふっ」
「えっ!? なぜ笑う!?」
「いや……演技が面白かったから」
「演技? してないが!」
「ああ……そう見えたってだけ」
「はあ……演技ねえ」
「才能あると思うよ」
「うるせえ」
「え?」
「なんでもない」
「……」
「……」
「……」
「……ありがと」
「え?」
「なんでもない」
それから、気が付けば私たちは車の中で眠っていた。眠っているところを彼が襲ってくるかもしれない、なんてことを微塵も想像しなかった自分に呆れるけれど、襲った痕跡がないところを見ると、彼もまた呆れるくらいにどうしようもない奴だったのだなと、私は呆れた。普通に生きることも、普通に死ぬこともできない私たち。強い風が小さなレンタカーを揺らす。空はどこまでも曇っていて、時間もわからない。それでも、この時間が永遠に続いてくれれば、私たちはきっと、生きていけるはず。永遠を願いながら、祈りながら、私はもう一度、眠った。