「私たち、普通に生きられなかったんだね」

池田大輝
·
公開:2025/3/15

「うん……」

「じゃあ、死のっか」

「うん……」

「いや、そこは引き止めろよ!」

「あ……ごめん」

「はあ……そういうところだぞ」

「すみません……」

「ねーえ」

「うん……」

「はあ……泣きたいのは私のほうなんですけど」

「うん……」

「うん、しか言えないの?」

「うーん……うん」

「なにそれ。全然面白くないよ」

「うん……」

「はあ……ううっ、さぶっ!」

「寒いね」

「ほんと寒い。てか風強すぎ」

「ね」

「はー、死にた」

「死にたいって思うの?」

「うーん、まあ、それなりに」

「そっか」

「きみはそうでもないでしょ」

「うーん……どうかな」

「私が『一緒に死のう』って言っても、直前で怖くなって逃げるでしょ」

「うーん……」

「否定しないってことは、そうじゃん」

「まあ……」

「死にたくないならさ、なんでこんなところまでのこのこついてきたわけ?」

「……」

「ていうか、ここ、どこ? 海ってことしかわからん」

「スマホは?」

「捨てた」

「ああ……」

「こいつマジでやばい女だな、って思ったでしょ」

「うん……」

「ふっ。そういう正直なところは悪くないと思う」

「どうも……」

「ふふ。これでも褒めてるんだからさ」

「うん……」

「……」

「……」

「なんかさ」

「うん」

「死ぬのって、結構ダルそうだよね」

「それは思った」

「え、マジ!? こんなところに共感者が!」

「だって……普通に考えたら、薬とかで死ぬほうが絶対楽だよ」

「それなー。でもさ、なんとなく、死ぬならこういう断崖絶壁かなって」

「ドラマの見過ぎでは……」

「家にテレビないけど」

「ああ……」

「だから、要するに、死ぬためにわざわざこんな場所に来てる時点で、本当は死にたくないんです、ってことの証明になっちゃってるってわけ」

「……」

「あれだよ、パフォーマンス。こんなに死にたいの、だから、誰か助けてー!って」

「……ふふっ」

「えっ!? なぜ笑う!?」

「いや……演技が面白かったから」

「演技? してないが!」

「ああ……そう見えたってだけ」

「はあ……演技ねえ」

「才能あると思うよ」

「うるせえ」

「え?」

「なんでもない」

「……」

「……」

「……」

「……ありがと」

「え?」

「なんでもない」

それから、気が付けば私たちは車の中で眠っていた。眠っているところを彼が襲ってくるかもしれない、なんてことを微塵も想像しなかった自分に呆れるけれど、襲った痕跡がないところを見ると、彼もまた呆れるくらいにどうしようもない奴だったのだなと、私は呆れた。普通に生きることも、普通に死ぬこともできない私たち。強い風が小さなレンタカーを揺らす。空はどこまでも曇っていて、時間もわからない。それでも、この時間が永遠に続いてくれれば、私たちはきっと、生きていけるはず。永遠を願いながら、祈りながら、私はもう一度、眠った。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink