#スーパーゲ制デー とはなにか?

池田大輝
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公開:2025/3/8

#スーパーゲ制デー というハッシュタグをよく見かける。おそらく「スーパーゲーム制作デー」の略称と思われる。そのような日が設定されているのかは知らないけれど、ハッシュタグが存在する以上、たぶん、そうなのだろう。

文字通り読めば、「ゲーム制作に注力する日」という意味だろうか。仕事でゲームをつくっている人であれば、スーパーゲ制デーであるかどうかに依らず、日々、ゲーム制作に注力しているはずである。趣味でゲームをつくっている人が、わざわざゲーム制作に注力する日を設ける意味は正直よくわからない。自分のペースでまったりと進められるのが趣味の良いところであって、他者と足並みを揃える必要はないと思う。もちろん、あえてそうするのは全然悪くない。

このように制作者が連帯を表明するようなハッシュタグは、ゲーム以外ではあまり見かけない。私は学生の頃は映画をやっていたけれど、スーパーゲ制デーのようなものはなかった。今もたぶんないと思う。コンテストや大会がいくつかあって、それが映画制作者の主なコミュニティとして機能していた。コミュニティと言いつつ、実質的には椅子の奪い合いであるから、スーパーゲ制デーに見られるような和気藹々とした雰囲気はあまり感じなかったけれど。

そもそも、スーパーゲ制デーのハッシュタグは誰に向けられたものだろうか? そのまま読めば、ゲーム制作者が連帯し、繋がり合うためのものだと読める。一方で、その実態は、「このようなゲームをつくっています」と、ユーザーに対して宣伝しているケースが多いように見える。それならば、「スーパーゲ制デー」ではなく「スーパーゲ宣デー」に改名したほうがわかりやすいのでは?

正直、このように連帯を表明することが私はかなり苦手だ。スーパーゲ制デーに限らず、なにかを支持するとかしないとか、どこかに所属するとかしないとか、そういうことに興味がない。連帯などせずとも、誰もが好きなことを好きなようにできる時代である。宣伝のためにハッシュタグを使いたいのはわかるけれど、傍から見る限り、あまり有効に機能しているようには思えない。ゲーム制作者がどのようにゲームをつくっているのか、ユーザーのほとんどは興味がない。ユーザーが求めているのは面白いゲームであって、進捗報告ではない。

と言いつつ、私もこのようにエッセィを書くことで、私というクリエイターを読者に売り込んでいる。作品を売っていることに間違いはないけれど、同時に、私自身も半分くらいは売り物である。池田大輝という名前が勝手にお金を稼いでくれる状態が理想であり、そのためにできることを日々、重ねている。だから、名前を薄めるようなことをできるだけしたくない。スーパーゲ制デーのハッシュタグを使ってしまえば、ユーザーからは「スーパーゲ制デーでポストしている有象無象の一人」と見做されてしまう。それは困る。だから、そのようなハッシュタグはできるだけ使わない。

機会損失ではあると思う。まだ売れていない段階では、ブランドよりも広範なリーチが大事だ、という理屈は理解する。しかし、それが長期的にはリスクであることもまた事実だ。ゲームやソフトウェア開発においては、オリジナル製品の開発よりも受託開発のほうが短期的には安定した収益が見込める。名前を出さず、いわば「ゴーストライター的に」稼ぐ方法である。名前を出さない分、報酬も上がるし、まずは受託で稼いでからつくりたいものをつくるという戦略は合理的だ。しかし、ゴーストライター業は、ブランド価値を長期的には毀損する。便利屋として重宝されるほど、独自ブランドとしての力を失っていく。そのようなケースをたくさん見聞きしたし、私も経験がある。気づいた頃には、手遅れなのだ。

ハッシュタグを使うことで多くの人にリーチできる反面、ブランドとしての名前は霞む。もちろん、そのあたりをうまくコントロールして、広く、深く、攻めることは不可能ではない。けれど、マーベル映画でさえも、日本のような狭い市場では、マーベルやキャラクターの名前を出さず、「ヒーロー映画」のひとつとして売り込まれる。面白そうだと思って映画を観に行くと、よくわからないキャラがよくわからない話をしている。なんとなく面白かったけれど、観客の頭に「マーベル」の名前は残らない。短期的な収入と引き換えに、長期的なロイヤリティを失ったのだ。

ところで。ゲームの宣伝をする際に、キャラクターを演じてくださった声優さんの名前をハッシュタグにするかどうかで迷うことがある。最近は、ハッシュタグを使わず、平文で書くことが多い。ハッシュタグを使わずとも、その人の名前を書けば、その人であるとわかる。当たり前のように見えて、実はすごいことなのかもしれない。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink