実写版『秒速5センチメートル』について

池田大輝
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公開:2025/7/7

『秒速5センチメートル』が実写化されるらしい。予告編も観た。正直、複雑な気持ちだ。

実写版の監督を務める奥山由之さんのことは、高校時代から知っていた。映画甲子園という、高校生を対象にした映画コンクールがあって、それに参加されていた。学年でいえば、奥山さんは私の一、二個上だったと思う。『パニック・コミック』というコメディ映画を今も覚えている。高校生とは思えないクオリティで、こんなふうに撮れたらなあ、と当時から影響を受けていた。

と、言いつつ、奥山さんのことをはっきりと覚えているのはそれが最後。当然、面識もない。奥山さんは私の存在も知らないと思う。高校、大学と、私は映画を撮っていたけれど、奥山さんの存在を意識したことはほとんどなかった。そして、映画甲子園から10年以上が経ち、実写版『秒速5センチメートル』の監督として、久しぶりにお名前を見かけた。

立っている場所が、見えている景色が、本当に、全然、違うのだと思う。その感覚は高校生の頃からあった。一生懸命映画を撮っても、絶対、この人みたいにはなれないのだ、と。その直感は正しかった。きっと、これから会うことも、認知されることもないだろう。それは、才能とか実力みたいな意味もあるけれど、どちらかといえばその遥か手前、生きている世界がそもそも違う。本当に、全然、違うのだ。

簡単に言えば、嫉妬に近い。『秒速5センチメートル』に衝撃を受けて、新海誠の存在を知って、アニメをつくって、ファルコムに入った。新海さんは、私の人生を大きく変えてしまった。きっと、同じような人は多いだろう。秒速はそれくらい、多くの人の心を揺さぶった。私はしょせん、その中の一人に過ぎない、という事実を、突きつけられたのだ。

私は新海誠でも、奥山由之でもない。私は私にしかつくれないものをつくる。そこに迷いも後悔もない。そう胸を張れるくらいには成長した。けれど、胸の中には、いろんなものが渦巻いている。それが消えることはない。いろんなものを抱えながら、生きなければ、つくらなければならない。『秒速5センチメートル』は、そういう映画だった。実写版は、その答え合わせになりそうで、観るのが怖い。ホラー映画だと思って観れば大丈夫かな、と冗談を書いてみても、全然、笑えない。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。エッセィを毎日更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink