20代の頃は、とにかくもがいていた。自分がどこにいるのかわからず、闇雲に手足をじたばたさせていた。ここが雲の上かも、海の中かもわからない。感じるのは、空気や水の抵抗だけ。なんらかの感触はあるけれど、それがなんなのかさえわからない。そうやって、なんとか生きて、気がつけば30代になっていた。
30代になると、少しだけ視界が開けてきた。遠くの景色が見えるようになった。雲の隙間からは青空らしきものが見え、海面を見上げるとゆらめく光の模様が見える。相変わらず、ここがどこかはわからない。けれど、この先に、なにか別の世界があることが、なんとなくわかるようになってきた。
そして今日、32歳になった。いま、少し先にはスタートラインが見える。スタートラインが見えると、うれしいことがある。それは、地面があるということだ。スタートライン自体は、別に、どうでもいい。線なんて、誰かが勝手に引いた印に過ぎない。大事なのは地面だ。足を踏み出せば、そこに地面がある。地面からのフィードバックを踏みしめながら、一歩ずつ歩くことができる。もしかしたら、その先は崖かもしれないし、落とし穴があるかもしれない。でも、それは気にしたってしょうがない。少なくとも、ここに見えている地面はどこまでも続いている。あとは、行きたい場所へ歩いて行くだけ。
遥か遠くに空が見える。すぐ目の前に地面が見える。ようやく、ここまで来た。ここまで来たら、あとはもう、どこへだって行ける気がする。だから、ついてきて。ねえ、これからどこへ行こうか?