好きなことをしているわけでも、夢を追いかけているわけでもない

池田大輝
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公開:2025/3/21

創作活動をしていると「好きなことができていいね」などと言われることがある。あるいは「夢を追いかけることは素晴らしい」とか。そのように言ってもらえるのはありがたいけれど、あいにく、好きなことをしているつもりも、夢を追いかけているつもりもない。

昔からものをつくることは好きだった。小学生の頃は工作やお絵かきをしていて、中学を卒業する頃には小さなデジカメで短編映画を撮るようになった。高校では映画サークルを立ち上げて、いろんな映画を撮った。大会で賞をいただいたりもした。大学は映画とは程遠い環境で、思うように映画は撮れなかったけれど、それでもミュージックビデオとか実験的な映像とか、それなりに色々つくった。大学を卒業してゲーム会社に入り、映像の仕事をさせていただいたのち、転職してからは友人と二人で恋愛ゲームをつくり始めて、今はひとりで恋愛ゲームをつくっている。

とにかく、ものをつくることは人生においてあまりにも当たり前のことだった。手を動かしてなにかを形にすることが楽しくて、ひたすらそれをしていた。映画からゲームへと形を変えながらも、その根源にあるモチベーションはほとんど変わっていない。物語を形にする。それだけを、ずっと続けてきた。

大変だったことは数えきれないくらいある。というか、大変じゃなかった制作はたぶん、ない。大学院にいた頃、未完成映画予告編大賞という大会があった。映画の「予告編」だけで勝負する異色の大会で、PV的なものが得意な私は意気込んで参加した。高校時代の映画の仲間を連れて、かなり本格的に構想を練った。キャストを集め、あちこちにアポを取り、東京から秋田まで行って撮影もした。VFXも多用して、とにかく、3分の映像に全てを注ぎ込んだ。結果は優勝にあと一歩及ばず、悔しい思いをしたけれど、それでも、やらなければよかったとか、もう辞めたいとは全く思わなかった。その翌年も同大会にリベンジした。ほとんどひとりで制作して、最終選考にノミネートされた。

それくらい自然なことだったのだ、と気づいたのは、ここ最近のことである。学生時代は創作を続ける一方で、自分はどこか普通に、たとえば大企業に就職するとかして、生きていくものだと思っていた。普通に就活をして、普通に面接を受けた。けれど、全部、落ちた。映像系の会社にも、一般企業にも落ちまくって絶望していた私を拾ってくれたのが、日本ファルコムというゲーム会社だった。

ファルコムを辞めてから、いくつかの仕事をした。全部、続かなかった。スキル的にはできるはずの仕事ができなかった。なぜこんなにもできないのだろうと自分でも不思議だった。学歴もスキルも、決して悪くないはずなのに、本当に、全然駄目だった。学生時代のアルバイトも含めると、20くらいの仕事を経験したと思う。5年以上続いたものは、ひとつもない。そんな中、唯一、長く続いているものがあることに気がついた。創作活動である。

きっと、自分にはこれしかできないのだ、と思う。そんなことはない、割り切って働くべきだと言う人もいるだろう。もちろん、できなくはない。ただ、続かないのだ。こればかりは本当にどうしようもない。生きていくためには、続けられる仕事を見つけるしかない。数年で職を転々とし続ければ、状況は悪化していくだけだ。それでは生きていけない。だから、生きていくために、続けられることを続けるしかない。自分にとっては、それがたまたま、創作だったというだけの話なのだ。

普通の会社で、普通に働き続けられる人が羨ましい。やりたいことがあっても、それは趣味程度に留めておけばよくて、仕事を軸に、趣味も家族も育てていく。そのような人が世界にはたくさんいることが本当に信じられない。こんなにも普通に生きられないのか、という絶望を、この数年で何度も味わった。もう少し普通の人間だと思っていたのに、どうやらそうではなかったらしい。だから、普通じゃないなりに、生きていける方法を見つけるしかない。

創作をすることは、私にとっては趣味でも仕事でもない。頭の中には常にアイデアや構想が渦巻いているし、なにかをつくっている最中は、次はなにをつくろうかと考えている。つくりたいもの、つくるべきものは無数にあり、それをつくることは生きることと同じくらい当たり前のことだ。それ以外のことに1日8時間を割くことは、残念ながらできなかった。

生きるためには、できることをするしかない。それも、一時的なものではなく、継続しなければならない。そのような条件を満たすものは、私にとっては創作しかない。だから、生きるために、創作をしているのだ。それしか選択肢がないのか、と思わなくもない。けれど、幸いにも、創作という行為は、ほとんど自由と同義である。これをつくらなければならない、というルールはない。むしろ、ルールに従わないもののほうが面白い。無限の自由をつくる、それが私が生きるための、唯一の選択肢なのだ。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink