これまでに付き合ってきた人の誕生日はもう、忘れた。なんとなく覚えているような気もするけれど、記念日と混ざっていたり、他の人の誕生日と勘違いしている可能性があり、正確に、胸を張って答えられるものはない。
あれほど大事に覚えていた日をなぜ忘れてしまうのか。一応、それなりに記念日を大事にするタイプだったはずなのに。ずっと覚えていたいとは思わないけれど、でも、なんとなく、寂しい。
などと書くと、未練があるように思われるかもしれないけれど、そうではない。別れたあとにこちらから連絡をしたことはほとんどない。一度うまくいかなかった相手と、二度目はうまくいくなんてことはない。会社も同じ。一度だめだと思ったら、二度目はない。世の中には人間も会社もたくさんいる(ある)。相性が悪いと思った相手に執着することで幸せになる人は誰もいない。
でも、少なくとも付き合い始めた瞬間は、お互いに魅力を感じていたわけで、付き合っていく過程でその幻想がどのように崩壊していくのか、興味はある。恋愛ゲームをつくるモチベーションもこのあたりにあるのかもしれない。付き合い始めたときは、すべてが新鮮で、美しくて、この幸福を超えるものは絶対にないと思える。記念日や誕生日は、その象徴となる。その、美しくつややかな石碑が、時間が経つにつれて汚れ、壊れ、刻まれた文字は読めなくなっていく。
ところで、以前、私のゲームのキャラクターに誕生日がないという話を書いた。理由はそこに書いたのでぜひ読んでほしいのだけれど、今回、理由をもうひとつ思いついた。きっと、忘れたくなかったのだ。誕生日があれば、いずれ忘れてしまう。設定に明記しても、カレンダーに登録しても、忘れる。いや、誕生日は忘れない。誕生日以外の日も彼女たちはたしかに生きているという「現実」を忘れてしまうことが怖いのだ。彼女たちは、物語の世界にたしかに、生きている。それを支え続けるのは作者である私の使命だ。ほとんど消えかけている過去の思い出たちが、そう思わせてくれるのかもしれない。