私は管理というものが苦手だ。計画を立てる。タスクを整理する。スケジュールを調整する。こういう、ものごとの管理、マネジメントが、昔から本当に苦手だった。夏休みの宿題はいつもギリギリ。計画通りになにかが進んだことは皆無。部屋はいつも散らかっている。そんな人間である。
だから、マネージャー的な存在が欲しいと、ここ数年はずっと思っていた。私はクリエイタータイプであり、斬新なアイデアを発想したり、ゼロから新しいものを生み出すことは得意。でも、それらを計画通りに進め、人を動かしながら、ゴールに向かって歩くことは苦手。苦手な部分をカバーしてくれる相棒のような存在を望んでいた。
けれど、そのような人が都合よく現れるはずもなく、仕方がないから、苦手なりにできることをやってきた。不器用で、迷惑ばかりかけている。それでも、やらないよりはマシだと思っている。そんな中、ここ数ヶ月でとある変化が起き始めている。AIエージェントの登場だ。
ChatGPTでもGrokでもGeminiでもなんでもいいけれど、おそらく、ほとんどの人が一度くらいはAIとおしゃべりしたことがあると思う。質問をすると、なんらかの答えが返ってくる。最近のAIは精度も向上し、少し前みたいに頓珍漢なことをあまり言わなくなった。進化は精度だけじゃない。自律的に行動し、複雑なタスクをこなしてくれる。Claude CodeというAIエージェントを、ここ1ヶ月ほど愛用している。簡単なプログラム程度なら、サクッと書いてテストまでしてくれる。最近は、Claude Codeを秘書のように使えないかと試行錯誤している。AI秘書システムを、AIと一緒につくっているのだ。
AIをうまく使うためには、良い指示を出さなければならない。これが結構難しい。指示がざっくりすぎるとAIが迷うし、詳細すぎると従ってくれない。一度のやりとりでうまくいくことはなく、AIのアウトプットを見て、次の指示を考える必要がある。AIによっても得意不得意は異なる。その日のコンディションにも左右される。AIのパフォーマンスをいかに最大化するかを考えなければならない。
お気づきの方もいるかもしれない。上の段落の「AI」を「部下」に置き換えても自然な文章になる。あるいは、プロジェクトチームなら「チームメンバー」、芸能事務所なら「タレント」でも良い。AI相手に仕事をすることは、実は、マネージャーの仕事をすることにきわめて似ている。
私は、誰かに指示されることが極端に苦手だ。だから、社会人になったばかりの頃はたいへん苦労した。新入社員の仕事は、上司に言われたことをこなすことである。仕事の定義が、私の性格に合わない。だから、仕方なく、自分一人でできる仕事を選ばざるを得なかった。自分で企画し、自分で手を動かす。しかし、自分を管理することもまた苦手だった。どうすれば良いか、途方に暮れていた。
他者をマネジメントする適性が意外とあるのかもしれない、と思い始めたのは、本当につい最近のことだ。AIのおかげも大きいけれど、それだけじゃない。ここ数年は、積極的に他人を頼るようにしている。昨年リリースした恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』では、声優さんや音楽家さんを中心に、多数の方々にご参加いただいた。マネジメントと呼べるようなことはしていないけれど、それでも、他者と連携して成果を出すという経験を積み上げることができた。今は少し違う仕事もしているけれど、そちらでもプロジェクトリーダー的な立場として、メンバーをマネジメントしていくような雰囲気である。
誰かの指示を受けて働いていたときよりも、あるいは、ぜんぶ一人で抱えていたときよりも、今のほうが遥かに居心地が良い。他者の良いところを見出し、それを存分に発揮する環境を整える。自分にはそれが向いているな、と思う今日このごろである。管理とは、縛り付けることではない。管理とは、自由を与えることだ。夢へと向かう大きな羽をやさしく撫で、そっと背中を押すことが、優秀なマネージャーの仕事なのだろう。