IPビジネスとタレントマネジメント

池田大輝
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公開:2026/5/23

どの会社もIPを欲しがっている。Intellectual property、日本語なら知的財産だ。ことエンタメ企業においては、IPは「売れるタイトル」くらいの意味で使われることが多い。名探偵コナンの映画は毎年大ヒットしていて、原作者である青山剛昌先生と、IPの管理者である小学館、その他大勢の関係者に利益をもたらしていると思われる。私が勤めていた日本ファルコムというゲーム会社も、IPで大儲けしている。ゲームソフトの売り上げよりも、IPすなわちファルコムが保有している世界観やキャラクターを他社に貸し出すことで利益を上げている。決算資料はネットで誰でも見ることができる。

ものすごく単純化すれば、人気のある作品やキャラクターさえあれば何もしなくても利益になる、という仕組みだ。こぞってIPを欲しがるのも頷ける。とはいえ、そんなものが簡単に手に入ったら苦労はない。売れるIPをゼロから生み出すことはきわめて難しく、それゆえにリメイクや続編ばかりがつくられる。すでに売れているIPに肖るほうがリスクを抑えられるのだろう。

とはいえ、そんなことを繰り返しているせいで、オリジナル作品はつくりにくくなり、余計にIPが生まれない悪循環が発生している。最近はゲーム発のIPが注目されているようで、『都市伝説解体センター』や『NEEDY GIRL OVERDOSE』などはそのお手本のような例である。ならば、ということで、テレビ局や映画会社や出版社などがゲームに進出し始めている。それくらい、みんなIPを欲しがっているのだ。

この状況に、ものすごく違和感を覚える。なんというか、江戸川コナンというキャラクターさえ手に入れれば、映画で100億稼ぐことができる、と言わんばかりだ。コナンの映画がヒットしているのは、映画を誰かがつくったからであり、それをつくる人たちがいたからだ。青山剛昌先生が漫画を描き、小学館の編集者がそれを見出し、本にして、世の中に流通させたからだ。江戸川コナンというキャラクターも、漫画も、映画も、勝手に生まれたものではない。ということを、IPを欲しがる人たちはどこまで理解しているのか。

どんなIPも、それを生み出す人がいることで初めて存在する、という事実は、たとえばお笑い芸人を見るとよくわかる。吉本興業にとってのIPは、所属する芸人そのものだ。芸人の「芸」が、吉本にとっての「商品」である。芸を見て面白いと思ったお客さんがファンになり、その人が出るテレビを観たり、その人が書いた本を買ったりするようになる。これはIPビジネスの最もプリミティブな形といえる。

個人的には、IPという言葉があまり好きではない。人を軽視している感じがするのと、あとは、みんなが口を揃えて言っていることは言いたくないという天邪鬼もある。私は恋愛ゲームをつくっていて、これまでに登場したキャラクターはざっと20を超える。私はみんなを、芸能事務所に所属するタレントのような存在だと思っている。「IP」ではなく「人」なのだ。まだまだ売れているとは言い難いけれど、それはマネージャーである私の責任である。みんな、とても頑張っている。私が彼女たちを生み出しているのではなく、彼女たちが物語を生み出すのを手伝っているに過ぎない。IPは、最初からそこにある。あとは、それを育て、支える覚悟があるかどうかだ。

@radish2951
恋愛ゲームをつくっています。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink