届かないものに手を伸ばす

池田大輝
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公開:2025/11/8

なんだか、昨日のエッセィとほとんど同じ内容になりそうだなあ。いつも同じようなことばかり考えている。届かないとわかっていながら、つい空ばかり見てしまう。簡単に手に入るものには興味がない。それは、希少さとかレア度とは少し違う。人間であれば、どんな人も等しく希少だ。アメジストよりもダイヤモンドが良い、みたいな話ではない。私が言っているのは、そのように比較可能なスケールのことではない。どれだけ近づいても絶対に辿り着けない場所。どれだけ手を伸ばしても絶対に触れられないもの。どれだけ強く願っても絶対に叶わない夢。そういうものに、憧れる。ちょっと、変かな? でもね、届かないものに手を伸ばしているときがいちばん、生きているという感じがする。ぐんと腕を伸ばしてみると、筋肉が伸びて気持ち良いでしょう。あるいは、山をしずかに登っていると、生きながら死んでいるような、不思議な気持ちになれる。そんな感じ。珍しく、今日は心が凪いでいる。届かないものについては、祈ることしかできない。語り得ぬものについては、沈黙しなければならないように。ただし、届かないかどうかは、実際に手を伸ばしてみないとわからない。手を伸ばすことと、ただぼうっと眺めることは違う。語り得ぬかどうかも、語ってみなければわからない。誤解してほしくないのは、「とにかく行動あるのみ!」みたいなお説教をしたいわけではない、ということ。そういう、俗っぽい話じゃない。あえて言えば、美学みたいなものか。手を伸ばしたところで、届かないことは最初からわかっている。それでも、いや、だからこそ、手を伸ばしてみたくなる。きっと、理解しがたいだろう。でも、同じように手を伸ばしたがる人がいることを私は知っている。空には届かないとしても、伸ばした手と手がぶつかることがあるかもしれない。それはそれで、素敵なことだと思う。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink