頑張れって言われたい

池田大輝
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公開:2025/2/13

「言われなくても頑張ってるんだからさ!」と怒る気持ちにいまいち共感できない。「頑張れ」と言われてイラッとした経験はほとんどない。言われたら、普通にうれしい。

「頑張りが足りない」は、たしかにイラッとする。何様だよ、と思う。というか、頑張れば成功できるという思い込みが透けて見えるのがつらい。頑張れば成功できるわけではない。頑張ることは、うまくいくための必要条件でも十分条件でもない。

「頑張る」という言葉には、どこか力が入っていて、全身にプレッシャーがかかっているようなニュアンスがある。リラックスの反対だ。身体中の筋肉がこわばって、ぷるぷる震えているような感じ。

「頑張れ」と声をかける人は、別にそのような無理を強いたいわけではないはずだ。マラソン選手に贈られる「頑張れ」という声援は、選手を鞭打つものではない。むしろ、少しでも早くこの苦しみから解放されますように、という祈りに近い言葉ではないだろうか。

「頑張れ」は、本来とは真逆の意味で使われるようになった。つまり、本当に頑張ってほしいわけではなく、できるだけ頑張らなくて済むような、自然で幸福な状態があなたに訪れますように、と神様に願っているのだ。唯一の神が存在しない日本らしい言葉ともいえる。実際、「頑張れ」に相当する言葉はおそらく英語にはないと思う。さっき、リラックスの反対だと書いたけれど、それならbe stressfulとか? うん、やっぱりおかしい。でも、祈りの言葉としての「頑張れ」には、対応する英語がある。たとえば、God bless youとか。

頑張れば成功する保証はどこにもない。むしろ、頑張らないほうが、本来のポテンシャルを発揮できる。一流のアスリートならみんな知っているはず。でも、「頑張るな」とはなんとなく、言いにくい。だから、つい「頑張れ」と言ってしまう。その「頑張れ」に、言葉としての意味はほとんどない。けれど、メタ的な情報としてひとつだけ、わかることがある。それは「私はあなたを見ていますよ」ということ。だから、「頑張れ」って言われるとうれしいのだ。

もし、私が頑張っているように見えたら、「頑張れ」って言ってください。それだけですごく、うれしいです。この段落だけは、頑張って書きました。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink