オタクと結婚する可能性について

池田大輝
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公開:2025/9/17

私は、人間を二種類に分けて考えることが多い。クリエイタータイプか、オタクタイプかの二種類。もちろん、厳密に二分されるものではないし、どちらにも該当しない人も結構いるだろう。どちらが偉いという話でもない。あくまで、私の思考の癖のようなものだ。

私自身は、クリエイタータイプを自認している。昔からなにかをつくらずにはいられない性分であり、物心ついた頃からそれは変わらない。なぜか、世間には「クリエイターは偉い」みたいな風潮があるようだけれど、私には全く理解できない。むしろ、オタクタイプの人たちへの憧れに近い感情がある。

私は、新海誠監督のファンである。ファルコム時代のオープニングムービーも含めて、ほとんどの作品を観た。けれど、新海誠のオタクである自認はあまりない。新海作品について語り合いたい気持ちもなければ、誰かに布教したい気持ちもない。ひとりで、しずかに、楽しむだけ。いまこの瞬間も、次回作の発表をひそかに心待ちにしている。

オタクの人たちは、なんというか、もっと楽しそうだ。オタクであることに誇りを持ち、推しを推し、作品を味わい、語らうことに生きがいを見いだしている。正直、自分はこんなふうに生きられないと思う。極端にいえば、他人に興味がないのだ。自分が生み出す世界にしか興味がない。正確には少しニュアンスが違うのだけれど、ここでは深入りはしない。

オタクへの憧れとは、ざっと以上のような感情である。ちなみに、私の体感では、クリエイタータイプの人は少ない。オタク趣味が高じて作家側に回る人もいるみたいだけれど、私のように、最初から自分の世界にしか興味がない人は少数派だと思う。私のまわりにも、オタクタイプの人が多い。私の創作を気にかけてくれる人もいる。ありがたいことである。

もしも結婚するとしたら、相手はクリエイタータイプか、オタクタイプか。そんなことを、たまに考える。少し前までは、クリエイタータイプかなと思っていた。似たような志があれば気も合うだろうし、諸々の苦労も分かち合えるだろう。ただ、仮に結婚したとして、本当にやっていけるのかは気になるところ。収入の問題は、遍くクリエイターに降りかかる。この点、オタクは、推し活のために堅実に稼ぐ人が多い印象がある。また、自分の世界にしか興味がない者どうしがどうやって惹かれ合うのかという問題もある。作品や作家性が、奇跡的に互いの琴線に触れることもなくはないだろうけれど、確率は低そうだ。

そんなわけで、結婚するとしたらオタクタイプの人のほうが、より「自然な」関係になりそうだな、という直感がある。もちろん、これは、私が誰と結婚したいかとは無関係であるし、結婚の予定の有無とも関係ない。「自然な」関係が果たしてベストなのか、という観点もある。歪だけれど、しかし、奇跡的にパートナーとしてうまくいくケースも、こと結婚に限っては珍しくないだろう。クリエイタータイプの人と結婚し、創作のパートナーとしてもタッグを組んで、とんでもない名作を世に放つ可能性だってゼロじゃない。それは、ある意味では理想である。

理想、か。理想の相手ではない人と結婚したら、それは妥協なのだろうか。そもそも理想の相手など存在するのだろうか。わからない。理想、つまり結婚(相手)に求める要求事項を網羅することさえ、ほとんど不可能なのではないか。

ふと、思う。クリエイタータイプの人(仮にSさんとする)と結婚し、私がSさんのオタクに、Sさんが私のオタクになる。このような関係は、限りなく理想に近い。理想に近いがゆえに、確率はきわめて低いだろう。一番の難関は、「私がSさんのオタクになる」という点。これが具体的にどういうことなのか、私自身がイメージできていない。新海誠に対してさえ、私はオタクではなくファンである。ファンとクリエイターは結婚できないが、オタクとクリエイターは結婚できないとも限らない。なんとなく、そんなイメージがある。

とすれば、私にできることは二つ。まずは、素晴らしい作品をつくること。あるいは、それをちゃんと売ること。知ってもらわなければ始まらない。まだまだ、全然できていない。もっと頑張らなければならない。もう一つは、Sさんのオタクになること。こちらのほうが重要、というか難しいだろう。私一人の問題ではない。Sさんにも頑張ってもらわなければならない。Sさんの眩しすぎるきらめきに、私は目を灼かれなければならない。

創作と結婚は、私にとって地続きだ。両者が重なることが、さっきも書いたように理想だ。そのようなパートナーシップを築いている人たちは、少数ながら存在する。少なくとも、夢物語ではないということだ。クリエイターと結婚するか、オタクと結婚するか。これは、創作に置き換えると、自分のためにつくるか、ファンのためにつくるか、という問いに重なる。どちらが正しいわけでもない。どちらがよりうれしいか、という程度のものだ。私の場合、作品を手に取ってくれた人が「面白かった」「楽しかった」と言ってくれることが、なによりもうれしい。なんとなく、私と結婚する人は、そういうことを気軽に言わない気がするけれど。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink