「可愛い」と言われたい人は多いらしい。その気持ちはよくわかる。可愛いって言われるとうれしい。
けれど、他人に「可愛い」と言うことには少なからず抵抗がある。まず、ハラスメントの問題。ほぼ、これがネックだと言っても良い。「可愛い」という言葉は、関係性に依って受け取られ方が変わってしまう。どう受け取られるかは、完全に相手次第であるから、どうしても保守的にならざるを得ない。
安心して言える間柄だったとしても、「可愛い」と言うことは簡単じゃない。やはり、それなりにドキドキする。誰にでも気安く言える言葉じゃない。
そう、誰にでも言えるわけじゃない、というのがポイントだ。「可愛い」と言える相手は限られる。だから、もし、一度でも「可愛い」と言ってしまったなら、その人は、少なからず特別な存在になってしまう。
大袈裟だと思う? でも、言葉とは、それくらい強いものなのだ。その意味で、「可愛い」は「死ね」に似ている。冗談のつもりで友達に「死ね」と言うのと、見ず知らずの他人に「死ね」と言うのとではわけが違う。一度でも「死ね」と言われたら、二度と元には戻れない。「可愛い」も同じ。言葉の意味こそ真逆でも、相手に与えるインパクトでいえばさほどの違いはない。
だから、本音を言えば、可愛いと言ってほしい人は「可愛いって言ってください」と表明してくれたほうがありがたい。そうすれば、こちらも安心して「可愛い」と言える。けれど、そうやって無害化された時点で、「可愛い」は本来の強さを失ってしまう。
大いなる言葉には、大いなる責任が伴う。大いなる可愛さには、大いなる「可愛い」が伴う。私があなたに「可愛い」と言うとき、少なくとも心臓はそれくらいドキドキしているのだ、ということだけでも覚えておいてください。
ちなみに。自分のゲームのキャラクターたちには、積極的に「可愛い」と言うようにしている。みんなの可愛さを、作者としてアピールしなければならないという使命感が芽生え始めたのだ。彼女たちには、びっくりするくらい、自然に「可愛い」と言える。フィクションのキャラクターだから、という理由は大きいのだろうけれど、それだけじゃないような気もしている。この違いはなんだろう。恋愛ゲームをつくっているくせに、こういうところは鈍いのだ。