声に敏感な体質です

池田大輝
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公開:2026/2/6

自覚し始めたのは5年くらい前から。それまで、とりわけ音に敏感だとか、感受性が高いとか、そんなことは思っていなかった。どちらかといえば、当時は映像の道を志していたから、視覚的な情報処理が得意なタイプだと思っていた。けれど、思い返してみると、音のない映像をつくることは昔から苦手だった。知り合いの映像作家は、映像だけで成立する映像をつくることができるのに、自分のつくる作品は、音がなければ全然面白くない。高校生の頃に制作したストップモーションアニメがバズったのは、8割以上が音楽のおかげだったと思う。『マトリックス』や『インセプション』のサントラを勝手に使っていた。幸い、YouTubeが勝手に権利処理してくれているので問題はない。

大学を卒業して、日本ファルコムというゲーム会社に入った。ファルコムでも相変わらず映像の仕事をやっていたのだけれど、学生時代との最大の違いが「声」だった。それまで、アニメやゲームにはほとんど興味がなく、したがって、声優の声に触れる機会もなかった。ファルコムで入社まもなく任されたPVの仕事で、初めて声優のボイスを大量に聴いた。これが、いま思えば、重大な転機だった。

声の力を思い知った。こんなにも贅沢にものづくりができることにワクワクした。あるいは、捻くれた見方をすれば、自分の映像のセンスなど、全然大したことなかったのだと悟った。音がなければ、作品を生み出すことすらできない。映像の道で勝負できなかったのは、自然だった。

ファルコムに入らなければ、そのような体験をすることはなかったはずだ。入社まもない新人に、新作タイトルのPVをつくらせるゲーム会社を私は知らない。ファルコムに入らなければ、声に敏感であることに気づけなかった。ファルコムに入らなければ、声に任せるという発想を持たなかった。ファルコムに入らなければ、声の力を知ることはなかった。

あ、そうそう。厳密には、アニメへの興味はゼロじゃなかった。新海誠監督の『秒速5センチメートル』を大学生の頃に観て、衝撃を受けた。主人公の遠野貴樹を演じたのは、水橋研二さん。思えば、あの映画に惹かれた理由の半分くらいは、貴樹くんの、水橋さんの声だったと思う。まあ、新海さんもファルコム出身なわけだし、そんなふうに思えるのも、やっぱりファルコムのおかげかな。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink