アドバイスはほぼ無視している

池田大輝
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個人で創作をしていると、他人からアドバイスを受ける機会があるけれど、基本的にはほとんど無視している。

多いのは、というかほとんどの場合、「業界」に詳しい人からのアドバイスだ。「これくらいは知っておいたほうがいい」とか「これをやらないのはまずい」とか「これはうちの業界ではタブーだよ」とか。知ったことではない。別に「業界」で大成したくてゲームをつくっているわけではない。そもそも、業界全体として守るべきことがあるならすでにルールになっているはずだから、それに従えばいいだけの話だ。ゲーム業界なら、レーティングというルールがある。ほかに明確なルールは知らない。著作権法などは別にゲーム業界に限った話ではないだろうし。

アドバイスをしたい気持ちはわからなくもない。「もっとこうしたほうがいいのにな」と思うことはあるし、たいていの場合、それを本人に伝えるべきかどうか、ものすごく迷う。伝える場合は、できるだけ「アドバイス」ではなく「個人の感想」として、そして「ひとつの選択肢」として提示するようにしている。「この選択をしたら、こういう可能性が開けるかもしれない」と、仮定に基づいたシミュレーションをする。もちろん、そこには主観や思い込みも多分に含まれる。だから、できるだけ「対話」をしたいと思う。こちらが一方的に「アドバイス」するのではなく、持ち込んだ「仮定」をもとに、いろんな可能性について議論する。予想もしなかった方向に話が進むと、とても面白い。相手はどう思うかわからないけれど、少なくとも自分は「思い切って話をしてみてよかったな」と思う。相手もそう思ってくれたらうれしい。

他人から一方的に投げつけられたアドバイスは無視するけれど、逆に、こちらからアドバイスをもらいにいくことはかなり多い。例えば、カービィやスマブラの生みの親である桜井政博さんは、YouTubeでゲーム開発についての解説動画をアップしていて、自分はこれを全部見ている。

自分が積極的に参考にする人にはある程度の共通点がある。まずは、実績がある人。それも、一発当てて終わりではなく、着実に成果を積み上げてきた人。だから、比較的高齢の人が多い。あとは、当たり前のこと、さらにいえば「身も蓋もないこと」を言う人。これは、自分にとってかなり重要だ。

「どうすれば○○ができるようになりますか」という質問に対して、「○○をやればよい」と答える人を、自分は信用している。自分の好きな作家やクリエイターの人は、たいてい、これを言う。身も蓋もないことだと思うし、人によっては突き放されたと感じるかもしれない。

でも、実際のところ、たぶんそれくらいしか客観的に言えることはない。少なくとも、見ず知らずの相手に対して「あなたならできるよ」とは言えない。桜井さんも、動画の中で一度もそういうことを言っていないと思う。

見返してみたら、やっぱり言ってなかった。むしろ、結構シビアなことを言っている。よかったら見てみてください。

結局のところ、こういう話は「アドバイス」よりもむしろ「客観的な事実」といえる。「どうすればゲームをつくれますか」という問いに対する「ゲームをつくればよい」という答えは、事実として全く正しい。でも、そういう当たり前の話は、なかなか受け入れにくい。何か裏技があるんじゃないかとか、才能がある人にしかできないんだとか、逃げ道を用意したくなる。別に逃げてもいいけれど、ゴールからは遠ざかる。

ちなみに。池田を応援してくれる人、それも長く応援してくれている人の言葉は、すべて受け取っている。「応援してる」とか「がんばれ」とか、そういうのが多い。考えてみれば、これはさらに上を行く「身も蓋もなさ」だ。もちろん、その「身も蓋もなさ」は何よりもうれしい。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink