イマジナリーラインと第四の壁

池田大輝
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映像作品におけるイマジナリーラインとは、対面する二人のキャラクターの間を結ぶ「想像上の線」のことだ。実写映画において、二人のキャラクターの会話を撮影する際、会話に合わせてカットを切り替えることが多い。このとき、カメラがイマジナリーラインを越えてはいけない、という原則がある。カットを切り替えるタイミングでカメラがイマジナリーラインを越えてしまうと、キャラクター同士の位置関係が観客に伝わりにくくなってしまうからだ。この原則はアニメなどでも成り立つ。

第四の壁とは、演劇などにおいて、舞台と観客の間にある「見えない壁」を指す。観客は、舞台の上で行われている行為をフィクションとして観賞する。舞台の上で殺人事件が起きても、それが現実の事件だとは誰も思わない。舞台の上はフィクションで、観客席は現実。その境界が第四の壁である。しかし、第四の壁を意図的に破ることもできる。キャラクターが観客に語りかけるのはその代表例である。第四の壁は、ほとんどのメディアにおいて存在する。キャラクターが第四の壁を破ってプレイヤーに語りかけるゲームもあるらしい。

同じように、イマジナリーラインを越えることもできなくはない。あえてイマジナリーラインを越えることで、意図的に違和感を与える演出も可能である。

イマジナリーラインと第四の壁。これらはいずれも、フィクションの世界には存在しないものだ。フィクションの世界を、現実世界に住む我々に向けて投影しようとした際に、二つの世界の接点として自然に生まれてしまう。フィクションの世界を「ありのままに」体験することは、現実世界に住む我々にはできない。映画、小説、ゲーム、舞台。それぞれのメディアには制約があって、それぞれのやり方で、フィクションの世界に近づこうとする。創作とは、二つの世界を接続する営みといえるかもしれない。もうひとつの世界に近づこうとしたときに、なにが起きるのか。そこに創作の面白さがあると私は思う。なお、この文章に第四の壁は存在しない。最初から、私はあなたに語りかけているのだから。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink