なんとなく、そんな気がする。根拠はない。付き合っている人も、好きな人もいない。マッチングアプリもやっていない。結婚願望はそれなりにある。
数年前、恋愛ゲームを完成させるために会社を辞めて、婚約者とも別れた。申し訳ないことをした気持ちはあるが、避けられない運命だった。このままの生活を続けたところで、お互いが幸せになる未来が見えなかった。大きな理由は、やはり会社だ。組織の中で働くということが自分にはできなかった。我慢してもう数年勤めたとして、いや、どのみち無理だっただろう。結婚する前で良かったとさえ思う。私はあなたの望むような人間にはなれませんでした、と、正直に打ち明けることができたのだから。
それから、ずっと創作を続けている。それまでも創作は続けてきたのだけれど、最近になって、ようやく、つくるべきものがはっきりと見えるようになった。学生時代は迷ってばかりだった。他人の顔色を窺って、優等生のフリをしていた。今は違う。たくさんのキャラクターたちが味方だ。彼女たちのために、果たさなければならない使命がある。
もちろん、すぐにうまくいくとは思っていない。課題は山積みだ。これが、だいたい3年後には解決されると見込んでいる。3年前、私は最初のゲーム『さくらいろプリズム』のイラストを泣きながら描いていた。彼女とも別れたあとだった。もう、なにもかもがつらかった。早く解放されたいと願い、そのためには作品を完成させるしかなく、ただ手を動かしていた。
それが(間接的に)きっかけとなり、シナリオライターの仕事をすることになった。シナリオは書いたことがないのに、である。ゲームの続編もつくった。新シリーズも出した。『さくらいろプリズム』を除いて、シナリオはすべて自分で書いた。国語も作文も苦手だったのに、書いてみたら意外と書けた。没になった分を含めると100万文字は書いたと思う。今は、またしても想像すらしなかった仕事をさせていただいている。まだ言えないが(そろそろ言えるかも?)。
3年間で、景色は一変した。霧は晴れ、青みがかった山脈が遥か地平線の彼方に見える。風は澄み、空は青く、鳥たちが草原で羽を休めている。向かうべき場所ははっきりしている。歩いて行くこともできなくはないけれど、あいにく今は満身創痍だ。馬が欲しい。水が欲しい。せめて靴だけでもお恵みを。
これがゲームだとしたら、とりあえずはモンスターを狩りながら近くの村を目指すだろう。やっとひと息……と思ったところで事件に巻き込まれ、身ぐるみを剥がされ監禁される。月の見える監獄で、どこからか甘美な歌声が聞こえる。ぼんやりと聞いていると、「気づきなさいよ、バカ」と、その声は呆れたように怒る。歌詞は、監獄を抜け出すためのヒントだったのだ。月が雲に隠れたのを合図に大声で喚き、看守を殴って錠を開ける。追っ手をかわし、監獄を抜け出す。月の眩しさに目を顰めながら、広い庭を二人は駆ける。背後からは矢や火の玉が飛んでくる。「どうして私を助けたの」と、きっと彼女は問うだろう。それはこっちのセリフだけど、なんて軽口を叩いている場合じゃない。息が上がって、応えられないことにして、無言で彼女の手を取った。