先日、文学フリマ東京に初めて出店した。出展、ではなく出店と書くのが文学フリマの流儀らしい。出店に際し、初めて本を書いた。ここ「しずかなインターネット」に毎日書いているエッセィ(あなたがいま読んでいるこれのこと)を加筆・編集したものに、書き下ろしエッセィを加えた本を出した。タイトルは『透明な私と桃色の君 White Peach Prismatica』。タイトルの意味は本を読めばわかるようになっている。
文学フリマに関しては、なにかと議論の的になっているのをかねてより見かけていた。出版業界が下火であること、それなのに文学フリマは毎年規模を増していること、商業出版がそこに便乗しているのを快く思わない人がいること、などなど。個人的に思うところはいろいろあれど、参加してみないことにはなにもわかるまい、という気持ちもあり、半ば社会科見学のつもりでこの度、初参加を決めた。
まず、率直な感想として、本を書いて出す人がこんなにいるんだな、と思った。ビッグサイトの巨大なホール二つがまるまる埋め尽くされていた。お客さんの数も多かった。ただし、出店者の「密度」に比べると、来場者のそれはやや低いように見えた。要するに供給過多である。人気作家と思われる巨大ブースには常にお客さんが集まっていた。無名の同人作家から見れば「商業出版に踏み荒らされた」と思うのも無理はない。
ただ、商業出版も楽ではないだろう。もはや風前の灯と言ったほうが正しいかもしれない。事実として、本はどんどん売れなくなっている。生き残っているのは漫画くらいだ。それ以外は本当に売れていない。だから、出版社も必死なのだろう。手段を選んでいる場合ではない、という声なき声が聞こえた気がした。
個人的な意見を書こう。出版社は本を読者に届けるプロだ。にもかかわらず、届ける手段を全く持たない無数の個人作家が集う文学フリマという場に平然と居られることは、情けないと言わざるを得ない。これは別の機会に書こうと思っているのだけれど、文学界における新人賞の意義が私にはよくわからない。熱心な読書家であっても賞を気にして本を買う人はあまりいないのでは? 出版社が、プロと素人の間に意図的に「壁」を設け、プロの矜持を守ろうとしているようにしか見えない。それなのに、文学フリマという「素人」の場に恥ずかしげもなく居座っていることは、正直、どうかと思う。売れるために手段を選ばないのならそれは結構なことだが、だとすれば文学フリマに参加する前に新人賞を取り止めたら良いのではないか。
簡単に言えば、内輪ノリに見えるのだ。私は読書家でもなければ小説家志望者でもない。文学というものには特に興味がない。恋愛ゲームをつくっているけれど、それが文学と呼ぶに値するのかどうかは重要じゃない。そんな部外者である私から見れば、出版業界のやっていることは、本好きの人たちが集まってごく少数の「先生」を持ち上げ、それが商売であると盲信しているように見える。批判したいのではなく、事実として売上が落ちているのだから、大丈夫かな、という気持ちに近い。
読者に本を届けることは、個人作家にとって最大のハードルである。だから、その道のプロである出版社のお世話になりたいと多くの作家志望者が思うのは自然なことだ。だからこそ、出版社は、文学フリマなどという、誰でも参加できる場を踏み荒らすのではなく、もっとオリジナルの武器を活かすべきではないのか。一握りの大ヒットをシリーズ化して、アニメ化して、ドラマ化して、グッズ化して、それでもこの出版不況を脱するにはあまりにも脆い。ミリオンヒットはもう出ない、と森博嗣先生も仰っている。ならば、文学フリマという場に集まる大量の作家の卵をうまく活用したほうが遥かに建設的ではないか。もちろん、業界の慣習とか、構造とか、簡単には変えられないのだろう。歴史が長いゆえのしがらみも多いと聞く。だからといって、このまま船ごと沈んで良いのか、という話である。本が好きなら、それを守り、育てるのが出版社の役目ではないのか。
と、アウトサイダーの視点から好きに書いた。よく知らないのになぜ書いたのかといえば、インディゲームを取り巻く環境に近からずも遠からず、だからだ。インディゲームが熱い、などと報道されることが増えた。事実、大ヒット小説の売上を遥かに上回るインディゲームは珍しくない。しかし、このままでは出版業界と同じ轍を踏むことは火を見るよりも明らかだ。というか、すでに踏みつつある。私は本にもゲームにもあまり興味はない。だから、業界がどうなろうと知ったことではない。大事なのは、業界ではなく作家であり、作家の生み出す作品であり、それを買ってくださる読者だ。業界はメディアに過ぎない。出版社は本を売ることはできるがつくることはできない。パブリッシャーはゲームを売ることはできるがつくることはできない。文化というものを誰が支え、守っているのか。文学フリマに参加して、そんなことを思った。