献血ルームが好き

池田大輝
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公開:2025/6/5

調べてみたら、これまでに献血をした回数は35回だった。最初の献血は大学1年生の頃。献血カーが構内に出張していた。その後は新宿駅西口の小さな献血ルームに通うことが多かった。ファルコムで働いていた頃は立川に住んでいて、立川の献血ルームが行きつけになった。立川の献血ルームは広くて綺麗で心地よい。今は別の場所に住んでいる。最寄りの献血ルームは今までの中でいちばん広い。

献血は、血を無償で提供する行為だ。問診に回答し、検査を受け、合格すれば血を提供する権利を得る。学歴も職業も出自も関係ない。きわめてドライな、身体の関係。人間の価値だとか生きる意味みたいなものが献血ルームにはない。命を救うための血液なのに、その提供者の命はどうでもいい。誰かの役に立ちたいとか、病気の人を救いたいだとか、そういう言葉は求められない。あってもなくてもいい。むしろ、ないほうがいいだろう。求められるのは健康な血液だけ。そのためだけに、広くて快適な献血ルームが設けられている。

命なんてその程度のものだ、ということを、献血のたびに思い出す。血液があれば生きられる人がいる。やりがいだとか、夢だとか、そんなものは贅沢な悩みだ。健康すぎるから、余計なことを考えてしまう。オーディションや試験に受かるかどうかなんて、血の濃さが充分かどうかくらいのことでしかない。たまたま健康だから、献血ができる。たまたま献血する人がいるから、生きられる人がいる。広い献血ルームで源氏パイを片手に甘ったるいミルクセーキを飲んでいる時間は、生きることそのものと同じくらい退屈で、ドライで、心地よい。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。エッセィを毎日更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink