赤坂駅の匂い

池田大輝
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公開:2025/6/12

大学生の頃、TBSのお土産屋さんでバイトをしていたことがある。最寄りは赤坂。TBSのすぐ近く。と言っても、TBSの社屋がどれかは知らない。一番大きいビルがそうだろう。当時は映画監督を目指していたから、少しでも関係ありそうなバイトを探してたまたま見つけたのがこれだった。お土産屋さんでバイトしたところでTBSの関係者と知り合える可能性は低い。というか、TBSの社員と知り合えても映画監督にはなれないだろう。当時はそんなことも気にならないくらい若かった。

お土産屋さんでのバイトは、自分にはあまり合わなかった。まず、レジがよくわからない。領収書とかクレジットカードとか駐車券とか、別個に出されてもよくわからないのに、一緒に出されるとパニックになる。品出しや掃除もタイミングが難しい。先輩ともいまいち距離を詰められない。これは厳しいな、と思った。さらに、店内に一生ループしているテレビCMの音に耐えられなくなったり、イベントの設営かなにかで馬鹿みたいに忙しい日のシフトにしれっと誘導されたり(先輩たちはなにも言わずにこの日のシフトを空けていた)、そういうことが続き、結局バイトは辞めた。結構長い間働いていたような気がするけれど、古い履歴書を見返してみたら勤めていたのは3か月だけだった。

今日、久しぶりに地下鉄で赤坂駅を通過した。列車が止まり、ドアが開いて——ふわりと空気が流れ込み、

懐かしい匂いがした。

どんな匂い、と訊かれても答えようがない。ただの、赤坂駅の匂い。ほとんどトラウマみたいな思い出だけれど、見方によってはギリギリ青春の1ページと言えなくもない。そんな、ひと夏の匂い。もう夏だ。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。エッセィを毎日更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink