私は運命の出会いというものを素朴に信じていて、人生をまるっきり変えてしまうような運命の人にいつか出会うと本気で思っている。ただし、よく考えてみると、仮にそのような人に出会ったとして、「あなたは運命の人です」なんていきなり話しかけようものなら、どんな運命だって、果たされる前に散ってしまう。こちらが運命を感じたとして、相手も同じとは限らない。
つまり、自分が誰かにとっての運命の人だったとしても、基本的には知りようのないことである。「あなたは運命の人です」だなんて誰も言えない。と、私は思うのだけれど、しかし、世界には、運命に導かれて結ばれた人たちがたくさんいる。「あなたは運命の人です」という告白を、もっと詩的な、素敵な、最適な言葉で伝える儀式がある。結婚式と呼ばれたりする。
「あなたは運命の人です」と言われたら、どんな心地がするのだろう。いまいち想像できない。急に言われたら、「へえ、そうですか」と思うだろう。「あなたもです」と言えたら素敵なのだろうけれど、そんなことって、本当にあるのかな。
と、このように考えてみると、いずれ出会う運命の相手も、少なくとも今はピンときていないだろう。「へえ、そうですか」が普通の反応なのだ。というか、それしか言えない。「あなたは運命の人です」と言われた瞬間、あなたが運命に出会ったように、私も運命に出会ったのだ。運命とは、それくらい強力で、絶対で、傲慢なのだろう。