焦って良いことはなにもない、とわかっているはずなのに

池田大輝
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公開:2025/12/16

それでも焦ってしまうのは、そういうふうに人間ができているからなのか、それとも、私が未熟なだけなのか。

こんなことをしている場合じゃない、という気持ちに、ずっと、うっすら、苛まれている。本当はもっとやりたいこと、やらなきゃいけないことがあるのに、その遥か手前で、恐ろしく遅いスピードで歩いている。これでも一応、頑張っている、といくら主張したところで、遠くの山は、全然こちらに近づいてこない。

もっと足元を見たほうが良いのだろう。一歩一歩を踏みしめながら、前進していることをたしかめながら、大丈夫と自分を鼓舞しながら、とにかく歩き続ける。たぶん、それはできている。むしろ、客観的に見れば、結構ちゃんと進んでいるほうである。計画を立て、記録を残し、記録に基づいて計画を修正できるようになった。どれくらいの速さで進んでいるのかを、把握できるようになった。この調子で歩き続ければ、それなりの場所には辿り着ける。

それでも、焦る。世界があまりにも広すぎて、ゆえに自分があまりにもちっぽけで、雲の速度に追いつこうとして、当然、追いつけるわけはなくて、そうやって空ばかり見ているから、転んで、怪我をして、余計に遅くなる。

本当に、そんなことばかりだ。我ながら呆れる。もっとストイックに、余計なことを考えず、ただ目の前の一歩を踏み出すことだけに集中できたらどれだけ良いか。どうしても、それができない。このエッセィを書く時間で、ほかにできたことがあったはず。それでも、私はこれを書いた。

きっと、世界が美しすぎるのがいけないのだ。モノクロで、無骨で、論理的な世界なら、ただ進む以外に選択肢はない。でも、この世界はそうじゃない。世界中がよってたかって、私を焦らしにかかってくる。遠い雲を見て焦り、足元の花を見て焦る。青い山際を見て焦り、黄色い蝶を見て焦る。偉大なあなたを見て焦り、頼りない影を見て焦る。そんなふうに生きています。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink