「憑依型芸人」と呼ばれる芸人さんがいる。ぱっと思いつくところだと、内村光良さん、ジャルジャル、あと最近だとスクールゾーン、エレガント人生などだろうか。ロバート秋山さんも憑依型と呼ばれることが多い気がするけれど、個人的には秋山さんのキャラのほうが強いと思っている。
コントなどで、まるでキャラが乗り移ったかのようにキャラを演じる。私は漫才よりもコントが好きで、それもこういう「憑依型」の芸人さんのコントをよく観る。
コントを観ていてたまに思う。「コントと演劇の違いってなんだろう?」と。
憑依型の芸人さんは、とにかくお芝居が上手い。ドラマや映画でも全然いけるのではと思うし、実際にそのように活躍している人も少なくない。かといって、「お芝居の上手さ」という一点だけを見て、お笑い芸人さんと役者さんが交換可能かと問われれば、決してそんなことはないように思われる。
芸人さんは、ほとんどの舞台において、お客さんを笑わせることを目標にしている。そのためにコントをする人もいれば、漫才、漫談、一発ギャグなど、いろんなことをする人がいる。憑依型コントも、キャラを演じることそれ自体が目的ではなく、あくまでもお客さんを笑わせるためにコントをしている。
反対に、役者さんは、必ずしもお客さんを笑わせることを求められない。というか、役者さんにとって、お客さんを笑わせるのは結構ハードルの高いことだと想像する。芸人さんですら日々お笑いの壁にぶち当たっているのだから、お笑いが本職ではない役者さんにとってはなおさらだろう。同じように、芸人さんサイドもまた、必ずしも良質な芝居を求められるわけではない。むしろ、わざとらしい演技や、ネタ中に素で笑ってしまうのが却って面白い、ということがよくある。
私はもともと、演劇とかお芝居とか、なんならコントも別に好きではなかった。高校では映画を撮りたくて映画同好会を立ち上げたけれど、演劇部から役者さんを呼んでくるという発想がなかった(そもそも演劇部があったのかすら知らない)。それが今では、毎日のようにコントを観て、自分のゲームにたくさんの声優さんをお呼びするようになった。数年前の自分からすれば信じられない事態である。
何がきっかけでコントやお芝居に興味を持ち始めたのか、よくわからない。いくつか心当たりはあるけれど、何か決定的なものがあったわけではないと思う。
強いて言えば、「憑依型」と呼ばれる芸人さんのコントは、なんというか、すごく微妙なところを突いてくる感覚がある。ガハハと笑えるお笑いでもなければ、うっとりするような卓越したお芝居でもない。そのどちらでもない、謎の出し物を見せられている。なぜそれが面白いのかうまく言葉にできないのに、なぜか見入ってしまう。
私は割とこういう「微妙な」ものに心惹かれる傾向にある。パキッと切れ味の良いお笑いやお芝居よりも、どこか中途半端だけど、そこにある言葉、会話の間、空気、気まずさ、そういうものがつくり出す唯一無二の時空間に身を委ねる心地よさとでも言えばよいだろうか。とにかく、そういうものが好きだ。
その意味では、「憑依型芸人」さんのコントには、そういう「微妙さ」が凝縮されているともいえる。これ以上はどうにも言葉にしがたい。歯切れが悪いけれど、このへんでやめておこう。
そういえば、もともとこの話は、私が「憑依型作家」だと思う、ということを書きたかったのだった。いま思い出した。こちらについてはいずれ、また。