Cygamesの内定を蹴ったことがある

池田大輝
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学生時代は映画の道を志していて、就活では映像制作会社や広告代理店をいくつか受けてみたけれど、全然だめだった。途方に暮れていた私は、映像という軸でいけそうな業界を探した。そのひとつがゲーム業界だった。

Cygamesは当時、シャドウバースやグラブルでかなり勢いがあったように思う。ウマ娘はまだ出ていなかった。私はソシャゲをやらない人間なので、Cygamesのゲームは全くやったことがなかったけれど、エージェントに「少しはプレイしておいたほうがいい」と言われ、グラブルを本当に少しだけ(10分くらい?)やった。そんなこんなで面接を受け、ありがたいことに内定をいただくことができた。

が、しかし、内定をいただいたのは、技術職だった。プログラマとか、そっち系の職種である。映像をやりたかった私はプログラマにはほとんど興味がなかった。プログラマで内定をもらえたのは、私の専門が多少そちらに近いという理由だろう。たしかに、向いているとは思う。けれど、本当に興味がなかったし、プログラマとしてキャリアを始めてしまったら、二度と映像のほうに戻れないのではという不安もあった。

とはいえ、貴重な内定であるから、一旦は内定を受諾して、それからすぐに内定式に出席することになった。内定式というものがあることにまず驚いた。大きな企業ならあるのだろうか? 大きな企業に就職したことがないのでわからない。内定式は、それはもう、豪華なパーティだった。場所はどこだっけ。とにかく、大きなホールが煌びやかに彩られ、内定の決まった社員に加え、現役の社員、それからパーティに呼ばれた芸能人なんかもいたと思う。新入社員はちょっとしたパフォーマンスもした(させられた)。とにかく、豪華で、壮大で、Cygamesはこういう会社なのか、と唖然としていたのを覚えている。

それから数日後、私は内定を辞退するメールを送った。「貴社の益々のご発展をお祈りいたします」などと書いたら、エージェントに怒られた。そうして、晴れて内定はゼロになった。もう10月くらいの話である。半年後から働かなきゃいけないというのに、貴重な内定を蹴ってしまったのだ。このような荒くれ者を採用したところで、どうせ入社後に散々揉めただろうから、お互いのためにやむを得ない選択だったのだろう。

Cygamesに入社していたら、今頃ウマ娘をつくっていたのだろうか。その可能性は高いだろう。ウマ娘もちょっとだけやってみたことがあるけれど、育成システムが難しすぎてすぐに辞めてしまった。よくあれをみんなプレイできるものだと感心する。私はゲームが下手すぎて、ゲームをつくるのには向いていないと思う。それなのに、なぜか、自分でゲームをつくっている。Cygamesに入っていたら、自分でゲームをつくることはなかったと思う。どちらが良かったのかは、わからない。どっちでもいいのかもしれない。でも、まあ、入らなくて良かったかな。私がCygamesに入ろうが入るまいが、ウマ娘は生まれていただろうけれど、私がCygamesの内定を蹴らなかったら、『さくらいろテトラプリズム』は生まれなかったと思うから。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink