ここ数年は、個人で恋愛ゲームをつくったりしてきた。個人で、というのは、会社や組織の一員としてではなく、私自身がオーナーとして、という意味である。昨年末にリリースした恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』では、音楽に籾山紗希さん、主題歌ボーカルに水町宵さんをお迎えし、総勢9名のキャストの方々にもご出演いただいた。
私が尊敬する新海誠監督は、2000年代が始まる頃に、『ほしのこえ』という短編アニメをほぼ一人で制作し、鮮烈なデビューを飾った。新海さんが担当したのは、アニメ制作のほぼ全部(企画、監督、脚本、作画、背景、CG、編集など)。それ以外には、音楽を天門さん、ヒロインの声を知人の女性にお願いしたという。アニメをほぼ一人でつくるだなんて、当時の常識としては信じられず、強烈な宣伝になっていたことと想像する。
その意味では、私も「ほぼ一人」でつくったと言えるかもしれない。企画、監督、シナリオ、イラスト、CG、アニメ、プログラム、宣伝などは、すべて私が一人でやった。新海さんよりも多いかもしれない。だから、新海さんと同じように、ほぼ一人でやったことがアピールになるだろうと見込んで、そのように宣伝してきた。「ほぼ」を省略することもあった。
けれど、今の時代は「ほぼ一人」が全然珍しくない、ということを思い知る結果となった。個人でゲームなりアニメなりをつくる人は星の数ほどいる。むしろ、ちゃんとチームを組んで、クオリティの高いものをつくる人たちが評価されるようになりつつあるように思う。
せっかく作品にたくさんの方が参加してくださったのに、それを無視するように「ほぼ一人」だなんて言ってきたことを、今更ながら後悔している。全然、一人ではなかった。そう思い込んでいたのは私だけだった。本当に申し訳ないことをした。これからは、もっと、アピールしていきたい。本当に、素敵な方々にご協力いただいた。それをちゃんと伝えることは、私の重要な使命であると、最近になってようやくわかった。
「ほぼ一人」という言葉が、「一人で全部やりたい」というメッセージとして伝わってしまった。もちろん、全然、そんなことはない。一人でやりたいだなんて一言も言ってない。これ以上、一人ですべてを抱えるような真似はしたくない。できるだけ、いろんな人に関わってもらいたい。どんな人と出会っても、自分一人では見えなかった景色に出会える。一人では辿り着けなかった地平へ行ける。それは本当にうれしいことだ。そして、願わくば、私に出会ってくれた人もまた、そのように思ってくれたとしたら、これ以上うれしいことはない。