「え……?」
「なに、そのリアクション」
「いや、その……もっと驚くかなって思って」
「私のことが好きで好きで仕方ないです、って顔に書いてあるけど」
「えっ、いや、それは……」
「違うの?」
「あ、いや」
「好きじゃないのに、好きです、だなんて言ったの?」
「ち、違います! も、もちろん……好き……です」
「うん?」
「えっと、だから……」
「聞こえない。ちゃんと言って」
「えっと……」
「えっと、はいらない」
「あ……その……す、好きです!」
「ふふ、ありがと」
「え?」
「え?」
「えっと……」
「私、変なこと言った?」
「いや、そうじゃなくて……」
「きみが好きですって言ってくれたから、私はありがとうって言った」
「あ……はい」
「気持ちを伝えてくれてありがとう」
「……はい」
「別に怒ってないよ」
「あ……すみません」
「怒ってないって言ったのに。ふふ、変なの」
「……」
「で、うーん。そうだなあ」
「……」
「正直、ドキドキしてる」
「え……?」
「きみが私に気があるんだろうなっていうのは薄々感じてた」
「あ……」
「でも、こうやって言われてみると、ちょっとドキドキしちゃうね」
「すみません……」
「こういうとき、どうすればいいんだろうね」
「はい……?」
「こういうとき、どうすればいいのか、わからない」
「……」
「ごめん、困らせちゃうよね」
「あ、いや……」
「でも、うーん……適当なこと言って気まずくさせるのも嫌だし」
「……」
「ねえ、もう一回言って」
「え?」
「もう一回、言ってよ」
「なにをですか――」
「好きです」
「……」
「……」
「……」
「って、言って」
「……好きです」
「知ってるよ」
そう言って、彼女はふわりと身を翻し、どこかへ消えていった。
気まずさをごまかすように、太陽が湿った校舎の裏に差し込む。
指先はじんとしびれて冷たいのに、ブレザーの内側は熱っぽい。
好きです、なんて言わなければよかったなと、心から後悔した。
春の陽射しと温度と湿度のせいで、ぜんぶ、夢みたいに思える。
学校をさぼると決めた朝に二度寝したときに見る夢みたいな夢。
目が覚めたら、二度と彼女に会えないことだけはわかっていた。
だから、もう少しだけ眠っていたくて、僕は変なあくびをした。