「好きです」「知ってる」

池田大輝
·
公開:2025/3/29

「え……?」

「なに、そのリアクション」

「いや、その……もっと驚くかなって思って」

「私のことが好きで好きで仕方ないです、って顔に書いてあるけど」

「えっ、いや、それは……」

「違うの?」

「あ、いや」

「好きじゃないのに、好きです、だなんて言ったの?」

「ち、違います! も、もちろん……好き……です」

「うん?」

「えっと、だから……」

「聞こえない。ちゃんと言って」

「えっと……」

「えっと、はいらない」

「あ……その……す、好きです!」

「ふふ、ありがと」

「え?」

「え?」

「えっと……」

「私、変なこと言った?」

「いや、そうじゃなくて……」

「きみが好きですって言ってくれたから、私はありがとうって言った」

「あ……はい」

「気持ちを伝えてくれてありがとう」

「……はい」

「別に怒ってないよ」

「あ……すみません」

「怒ってないって言ったのに。ふふ、変なの」

「……」

「で、うーん。そうだなあ」

「……」

「正直、ドキドキしてる」

「え……?」

「きみが私に気があるんだろうなっていうのは薄々感じてた」

「あ……」

「でも、こうやって言われてみると、ちょっとドキドキしちゃうね」

「すみません……」

「こういうとき、どうすればいいんだろうね」

「はい……?」

「こういうとき、どうすればいいのか、わからない」

「……」

「ごめん、困らせちゃうよね」

「あ、いや……」

「でも、うーん……適当なこと言って気まずくさせるのも嫌だし」

「……」

「ねえ、もう一回言って」

「え?」

「もう一回、言ってよ」

「なにをですか――」

「好きです」

「……」

「……」

「……」

「って、言って」

「……好きです」

「知ってるよ」

そう言って、彼女はふわりと身を翻し、どこかへ消えていった。

気まずさをごまかすように、太陽が湿った校舎の裏に差し込む。

指先はじんとしびれて冷たいのに、ブレザーの内側は熱っぽい。

好きです、なんて言わなければよかったなと、心から後悔した。

春の陽射しと温度と湿度のせいで、ぜんぶ、夢みたいに思える。

学校をさぼると決めた朝に二度寝したときに見る夢みたいな夢。

目が覚めたら、二度と彼女に会えないことだけはわかっていた。

だから、もう少しだけ眠っていたくて、僕は変なあくびをした。

@radish2951
ゲーム作家。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink