実写版秒速5センチメートル、下から見るか?横から見るか?

池田大輝
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公開:2025/9/22

奥山由之監督の実写映画『秒速5センチメートル』が2025年10月10日に公開される。新海誠監督が手がけた同名のアニメーション作品の実写版である。この映画に対する複雑な感情は、以前、別のエッセィに書いた。

この実写版を観るかどうか、ものすごく迷っている。まあ、たぶん観るけど。簡単に言えば、恋人を寝取られたような、そんな気分である。寝取られた恋人とその相手の情事を、劇場の巨大なスクリーンで観る覚悟があるか? もちろん、ない。ないけど、観ないと絶対に後悔する。あらぬ妄想が頭の中で肥大化して、取り返しのつかないことになるだろう。だから、やっぱり、観るしかない。

ところで、短編作品が劇場映画化された例として、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を思い出す。これは、オリジナルが岩井俊二監督によるテレビドラマで、のちに新房昭之総監督によってアニメ映画化された。『秒速』とは順番が逆である。

『打ち上げ花火』には、さほど思い入れはない。観たのはアニメ版のみである。岩井俊二監督の作風にはたいへん影響を受けているし、アニメ版はかなり好きな作品だ。ただ、『秒速』みたいに拗れた感情は一切ない。素直に、楽しく、観ることができる。

きっと、ほとんどの人は、後者だろう。映画を観るときに余計なことを考えてしまうのは、関係者か、よほど拗らせたファンくらいではないか。たしかに、原作が雑に実写化されてファンが激怒する事態はよく目にする。ただ、それは、どちらかといえば安直な商業主義に対する反発であって、むしろ正当な怒りだと思う。私のは、紛うことなき拗らせである。新海誠が過去に在籍していたという理由でファルコムに入社してしまう人間である。さもありなん。

ふつう、花火は下からしか見れない。私たちは地上に立ち、花火は空に打ち上がるのだから当たり前だ。横から見ることができるとすれば、かなり離れないといけない。このとき、「ほぼ横から」見ている形になる。ついさっき「花火は下からしか見れない」と書いたけれど、これは正しくない。仮に花火が500メートルの高さに打ち上がるとして、この花火を、打ち上げ地点から500メートル以上離れた地点から見ると、下よりかは横から見ていることになる。5キロメートル離れると、ほぼ真横である。

花火を横から見たいと思う人は、たぶん、あまりいないだろう。どちらかといえば、できるだけ近くで、下から見たいのではないか。私は、横から見たい。それも、遠くからではなく、すぐ近くで。ヘリコプターに乗って、花火の真横すれすれから見るイメージ。これが、私の拗らせの正体である。ちょっと、わかりにくい? ではヒント。新海さんは、すでに花火を上から見ている。いつか同じ場所から花火を見たいな。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink