高校の弓道部を1週間で辞めた話

池田大輝
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公開:2025/6/23

中学を卒業する頃から映画に興味を持ち始め、友達と一緒に短い映画を撮った。ある日、ちょっとしたアクション映画を撮ることになり、その中で弓矢が登場するということで、実家のガレージにある竹やロープを使って弓を組み上げた。適当な棒を矢に見立てて射てみると、それなりに飛ぶ。映画の中でこの弓は一度だけ登場した。

高校に入った時点では、映画を撮りたい気持ちはあまりなかった。特に入りたい部活もない。そこで、なんとなくちょうど良さそうな部活として弓道部に興味を持った。つい最近弓矢をつくったし、それに、弓道部に入る人たちが「なんか良い感じ」に見えたこともあり、弓道部に入部した。なにをしたのかはほとんど覚えていない。唯一、記憶にあるのは、ゴムでできた弓のモックのようなものを構えて、弓矢を射る練習。いきなり本物を触るわけにはいかないのだろう。ゴムを引っ張る間、ああ、なにしてるんだろうな、という虚無感だけがあった。それから1週間後、弓道部を辞めた。担任に退部届を提出したら、「せっかく入ったのにもう辞めるのか」と言われた。練習に行ったのは、たぶん、あの一度だけだった。

それから、友達と一緒に映画を撮り始めた。中学時代とは別の友達。映画部はなかったから、有志が集まる形で撮った。映画甲子園という大会に出場するにあたり、団体名が必要になり、映画愛好会という、学校非公認のサークルをつくった。翌年、これは映画同好会として公認されることになる。

ゴムの弓を引っ張っていたときの虚無感を今もときどき思い出す。会社に勤めていたときは、ずっとそんな感じだった。やっぱり、あのときの直感は正しかったんだなと思う。心が空っぽになることに耐えられなかった。心の中の空気が減って、真空に近づくと、外圧に耐えられず、身体がぺしゃんこに潰れてしまう。本能が、それを回避したのだ。

ちなみに、私の好きな『秒速5センチメートル』という映画の主人公・遠野貴樹くんは、高校で弓道部に入る。同級生の澄田花苗は、貴樹くんが弓矢を射る姿にときめく。きっと、貴樹くんも空っぽだったのだろう。貴樹くんは、弓道部を辞めなかった。貴樹くんは、空っぽのまま大人になった。私は、空っぽであることに耐えられなかった。どちらが良かったのかはわからない。どちらが良い、という話でもないだろう。それは、『秒速5センチメートル』のラストがバッドエンドかハッピーエンドか、という議論と同じくらい意味のない問いだ。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。エッセィを毎日更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink