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天才小説家の引退

池田大輝
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公開:2026/8/20

小説家の森博嗣先生が今日をもって作家を引退するという。正確には、ホームページの更新が今日で最後とのこと。でも、きっと、本はもう出ないのだろう。今年の12月に予告されているエッセィ本が、現在アナウンスされている最後の本である。森博嗣を初めて知ったのは、高校時代の友人から『すべてがFになる』を布教されたとき。2022年の冬だったと思う。まだ4年も経っていないのか、と驚くばかり。『すべてがFになる』は、正直そこまで感動しなかった。それでも、小説とエッセィ本を含めて、もう20冊は読んだと思う。森博嗣の魅力については、あえて書かないことにしよう。というか、書きたくても書けない。言葉にしようのないものが、森さんの文章には溢れている。

似たような作家は、あとにもさきにも存在しない。それだけは断言できる。生まれながらにして、人はそれぞれ異なっている。それはそうとして、作家、ひいてはクリエイターに必要なのは、その唯一無二の個性なるものを、作品に昇華することである。その点において、森さんは、まさに天才的だと思う。他の人には絶対に書けないものを書く。文章から声が聞こえるという体験を、初めて味わったのも森博嗣である。森さんは、学生時代は国語が苦手だったという。私も同じで、特に文章を読むのが苦痛だった。森さんの文章は、文章を読んでいる感じがしない。その向こうにある世界を覗き見るための洒落た小窓のようである。その窓のそこかしこに、実に憎らしいトリックが仕掛けられている。

作家が消えても、作品は消えない。とはいえ、森博嗣先生の新刊が読めなくなると思うと、やっぱり、寂しい。ところで、森さんは大学の助教授として研究に従事する傍ら小説を書いていたそうだけれど、私も一応、研究職である。ちょうど1年くらい前から、某国立研究機関に勤務している。いわゆる理系だ。森さんは、趣味のお金を得るためにバイトとして小説を書き、出版社に持ち込んだところ、いきなりデビューが決まったという。『すべてがFになる』はメフィスト賞の第一回受賞作であり、メフィスト賞創設のきっかけとなった作品でもある。そういえば、今年の下期メフィスト賞の締切が8月31日である。ちなみに、森さんはデビュー作を1週間ほどで書き上げた、とエッセィなどで語っている。天才は、引退のタイミングすらも憎らしいほどに天才的だ。

@radish2951
恋愛ゲームをつくっています。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink