ミュージカル映画をつくりたい

池田大輝
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公開:2025/11/4

ミュージカル映画というものを、ほとんど観たことがない。その中でもいちばん観たのは、デイミアン・チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』。大学院生の頃、近所にあったイオンシネマが閉館することになり、名作映画を安く観られるキャンペーンが行われていた。観てみるか、と軽い気持ちで観たら、たいへん胸を打たれてしまい、結局、10回くらい観た。

それまで、ミュージカルというジャンルは、どちらかといえば苦手だった。演劇的というか、芝居的というか、突然歌い出すのが理解できないし、型にはまった、テンプレ的な芸術というイメージがあった。『ラ・ラ・ランド』は、それを覆した映画だった。『ラ・ラ・ランド』について詳しく語ることはここではしない。面白いし、曲も良いので、ぜひ観てみることをおすすめする。

舞台を観るようになったのも、この映画がきっかけだと思う。舞台もそれまでずっと苦手で、もっと言えば、映画を撮っていたくせに、演技とか芝居というものに全く興味がなかった。だから、学生の頃は、知り合いに声をかけて出演してもらっていたし、プロの役者にお願いするという発想が全くなかった(単純にお金がなかったのも大きいけれど)。

10年前の私が、ミュージカル映画をつくりたいと言っている10年後の私を見たら、きっと信じないと思う。いちばん嫌いなジャンルに、なぜ、あえて飛び込むのか。それは、苦手だからこそ、自分一人でやるわけにはいかないからだ。

ミュージカルには、歌が不可欠だ。つまり、歌う人が不可欠であり、俳優の歌声が不可欠である。こればかりは、監督がいくら演出を凝らしたところで、どうしようもないところである。学生時代の私は、それを知らなかった。映画とは、監督がすべてをコントロールするものだと思っていた。まあ、ある意味ではそうだし、そういう監督もいるけれど、少なくとも私は、そういうタイプじゃないと気づいた。

役者に託す必要があるし、シーンによっては、天気や撮影時の条件など、偶然にも身を委ねなければならない。ミュージカル映画は、コントロールを放棄しなければ完成しないジャンルなのだ。あるいは、映画とは須くそのようなものかもしれない。それが顕著に現れるのが、ミュージカル映画というジャンルなのだろう。

そして、もちろん、私がミュージカル映画をつくるとしたら、ありきたりなものには絶対にしない。誰も観たことがない、聴いたことがない映画にする。それが具体的になんなのかは、決まっていないし、ネタバレになるので書かないけれど、少しだけヒントを出すとしたら、たとえば『マトリックス リローデッド』や『秒速5センチメートル』は、私にとっては広義のミュージカル映画である。あるいは、もうすでにミュージカル映画をつくり始めていると言っても良いかもしれない。ある曲を、ここ数年間、ほとんど毎日聴いている。名曲は、不思議なことに、何度聴いても最初に聴いたときのときめきを思い出させてくれる。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink