「(この感じだと、次の次……くらいで告白される。たぶん。知らんけど。まあ、うん、うれしいんだけどさ。うん、うれしいんだよ。私のことを好きでいてくれるのは普通にうれしい。てかめっちゃうれしい。うん。全然いいよ。全然好きになっちゃっていいよ。全然うれしいよ。ただ、告白するのはさ、違うじゃん。それはさ、なんとなく、わかるじゃん。てか、わかれよ。そういうところがちょっと、あれなんだよ。そういうところがちょっとあれだから、別に、普通にしてたら、あ、いい人だなって思うのに、告白しそうな雰囲気を出すからダメなんだよ。その時点でもうダメなの。わかる? まあ……キミにはまだわからんか。はあ。てか、男の人って、マジでそういうのわからないんだね。なんだろう。これは行っていいやつだ!とか、これは違うだろ!とか、なんかさ、あるじゃん。女子ならみんなわかると思う。え? わかるよね? 私がおかしいわけじゃないよね? まあそれなりに人生経験してたら、それくらいの分別はつくよね? あ、いや……その、別に、人様に偉そうに講釈を垂れるほどの経験など全くございませんけれども、けれどもさ、それくらいはさ、わかるじゃん! なんで!? どう考えても私は無理だろ! ごめんだけどさ! ありがたいけど! それはさ、違うじゃん! ごめん! 諦めろ! 諦めるんだ、少年よ! いや、少年って歳でもないか? まあそれはいいや。あのね、気まずいの。わかる? 別に、私はね、キミが告白してきても、『ありがとうございます』って言って、それで終わりなの。それ以上はなにも言えないの。そういうものなの、大人は。嫌でしょ? 振られたら。私も嫌だよ。断るのって、体力使うの。めんどくさいの。ごちゃっとするでしょ。そしたらさ、嫌じゃん、お互い。わかるよね? うん、わかってきたね。よしよし。いい子だ。じゃあ、約束して。間違っても、私に告白しないこと。それは、私のためじゃなくて、お互いのため。わかった? オーケー? うん。よーし、そうと決まれば——)」
そして、彼のほうを振り向こうとした瞬間、
「あ、三島さん」
と言って、彼は私の前髪に手を伸ばし、
「花びら、ついてる」
そう言って、指先にひとひらの桜の花びらを掬い——
「じゃあ、お疲れ様でした」
傘を閉じて、そそくさと駅の改札の中へと消えていった。
名字呼びのくせに告白だなんて、調子に乗るなよ、少年。
霧のような雨の冷たさと、こんな日に限って傘を忘れた私のアホさに、私はただムカついた。