物語を書くのは楽しい。ただし、自分だけ楽しくてもだめで、読者に楽しんでもらわなければならない。楽しい物語とは、続きを読みたくなる物語だ。小説なら次のページを、ドラマなら次の話を、映画なら次回作を観たいと思ってもらう必要がある。そのためには、常に、なんらかの「謎」を仕込まなければならない。
ミステリィやホラーが人気ジャンルの筆頭なのは、このためだろう。事件の謎も、怖いシーンも、鑑賞前はわからない。どんなトリックなのか、どんな恐怖が待っているのか、それが気になって仕方がないから、お客さんは劇場に足を運ぶ。
ミステリィやホラーの宣伝は、基本的には「匂わせ」である。犯人はこの中にいるらしい。祠を壊すと大変なことになるらしい。そういう匂わせを重ねることで、潜在的な観客をそわそわさせる。アクションや恋愛ものなどは、匂わせが比較的控えめである。この恋は叶うのか、と煽られたところで、まあ、叶うか叶わないかの二択であるし、知らない誰かの恋の行方にさほど興味は持たないだろう。
そう思うと、恋愛リアリティショーが人気なのも納得がいく。複数の恋人候補のうち、誰と付き合うのか。構造としては、ミステリィとさほど変わらない。ミステリィ的な謎解きと、恋愛的な普遍性が組み合わさって、中毒的な面白さを生むのだろう(観たことがないので想像)。
と、偉そうに書いているけれど、うまい「匂わせ」をすることは、私の重要な課題である。作品や私自身に対して興味を持ってもらう必要がある。それも、ただ「こんな作品です」「こんな人間です」と説明するのではなく、謎を散りばめ、伏線を張り、もっと知りたいと思ってもらわなければならない。このエッセィも、そうした血の滲む努力の一環ではあるけれど、果たしてどれほど成果が出ているのやら。まだまだ、足りないと思う。もっと、ちゃんと匂わせなければならない。さて、どうしたものか。まあ、まずは、匂わせのプロに話を聞いてみるところから、かな。