特別扱いしてほしい

池田大輝
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公開:2025/7/4

誰にとっても特別な存在になる必要はない。というかそれは無理だ。新海誠だって、そもそも知らない人のほうが多いだろう。世界中のみんなに好かれるだなんて、SNSが見せる幻想に過ぎない。

そうではなくて、たった一人の誰かにとって特別な存在になりたい、ということ。これについては、これ以上説明のしようがない。というか、説明したくてもできない。特別扱いされたことがないからだ。

あなたを特別扱いしますよ、という契約がこの世界には存在する。結婚と呼ばれるものだ。結婚するまでは、その人は特別な存在ではない。いや、特別な存在かもしれないけれど、その特別さは特別に特別なものではない。親にとって、子供は特別な存在だ。契約などせずとも、である。

結婚は違う。特別でない他人を、特別扱いしますよと宣誓するのだ。その誓いは、一生をかけて特別扱いするという具体的な行為によって確かめられる。親子関係における特別性と、婚姻関係における特別性の違いがここにある。つまり、なにもしなくても特別か、特別扱いするから特別か、の違いだ。

なにもしなくても特別な人はたくさんいる。というか、私が名前を覚えている人は全員、その意味では特別だ。名前は、特別性そのものと言えなくもない。特別扱いとは、その特別な名前を、ほかのどの名前とも違う、唯一無二の、交換不能な対象として、特別に扱うことなのだ。

特別扱いは、具体的な行動を伴う。だから、誰でも彼でも特別扱いすることはできない。そのリソースを誰に向けるかは、人生における大きな決断といえるだろう。結婚について書くたびに思うけれど、それくらい重い決断を、多くの人々が軽々と下していることが不思議でならない。きっと、私が重く考えすぎなのだろう。というか、別に結婚の話をするつもりじゃなかった。結婚じゃなくても、特別扱いしてくれて構わない。そのような状況はあり得るのだろうか? うーん……。友達も特別ではあるけれど、特別扱いするから友達、ではないだろう。友達だから友達なのだ。やっぱり、結婚は特別だ。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。エッセィを毎日更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink