「メロつく」という言葉を最近、耳にするようになった。形容詞だと「メロい」になるらしい。正確な意味はよくわからないが、「メロメロ」という言葉に語源がありそうだ。「メロメロ」は、アニメなどで目がハートになっているような様子を指す。それくらい、相手に惚れている状態である。「メロつく」は、「メロメロ」よりもやや官能的な響きを含んでいるように聞こえる。「メロメロ」が、王子様のような、いかにも理想の存在に対する憧れに近い感情を想起させるのに対して、「メロつく」はもう少し肉体的で、手の届く範囲の人間に対する生々しい視線を思わせる。ねっとりと嘗め回すような、露骨に性的なニュアンスがある。そのような感情表現をネットで当たり前に見かけるようになった。
露骨に性的なものは、どちらかといえば苦手である。少し、引いてしまう。「メロつく」という言葉に、おそらくそこまで過激なニュアンスは含まれていないことだろう。しかし、逆に言えば、過激なニュアンスが言葉の陰に潜んでいるような、ある種の末恐ろしさを感じる。「夫を殺したい」と冗談抜きで発言するアカウントは結構存在する。おそらく、本気なのだろう。「メロつく」という言葉の裏に潜んでいる性的な願望、いや、本能も、それに近しいものを感じずにはいられない。
ネットで本能をむき出しにすることについてとやかく言うつもりはない。どちらかといえば、「メロつく」という言葉が、本能を一応ラッピングするための、ほとんど意味のない薄い布みたいに使われていることにぞわぞわする。布面積がほぼゼロの水着姿を見たときの感覚、と言えば伝わるだろうか。本能をむき出しにすることは、人間的であることの対極にある。言葉は、人間を人間たらしめる衣服のようなものかもしれない、と思った。