3割くらいの力で生きる

池田大輝
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公開:2025/11/18

全力で走り続けることはそもそも無理なんだ、ということを、30年以上生きてきて、ようやく知った。陸上に喩えるとわかりやすい。全速力で走るのなんて、プロの選手でも1分くらいが限界だろう。全力で走ったあとは、しばらく動けなくなるし、身体もダメージを受ける。全力を出すことの代償は大きい。

というくらいまでは、おそらく誰でも知っているはずで、だから、じゃあ、8割くらいの力で生きよう、みたいな話になる。腹八分目という言葉もある。けれど、思うに、8割でも頑張り過ぎである。100メートルを全力で走って10秒だったとする。このとき、8割の力で走ると、12.5秒になる。想像すればわかると思うけれど、しんどさはほとんど変わらない。では、5割ではどうか。100メートルを20秒で走る計算。走れなくはないけれど、それでも、結構しんどいはずだ。このペースで10分走れる人はほとんどいないと思われる。

3割の力だと、100メートルを走るのに33秒かけることができる。これは、かなり楽だと思う。ジョギングくらいのペースではないか。このペースであれば、走り慣れている人なら、1時間も無理ではないだろう。3割くらいの力で初めて、そこそこ遠くまで行けるようになる。

なお、陸上の比喩を持ち出してみたものの、私は走るのがめっぽう苦手である。100メートル33秒でも、結構しんどい。1割、つまり秒速1メートル、ウォーキングくらいのペースなら、まあ、1日ぶっ通しで歩けないこともないだろう。歩き続けるのは、それくらい大変なのだ。3割の力で生きることは、持続可能なペースの3倍を目指します、という、きわめてシビアな宣言といえる。

@radish2951
恋愛ゲーム作家。毎日21時頃にエッセィを更新しています。恋愛ゲーム『さくらいろテトラプリズム』をよろしくお願いします。 daiki.pink